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グランプリ・京都2017

観戦記事

決勝:木原 惇希(東京) vs. William Jensen(アメリカ)

By 矢吹 哲也

 今回のグランプリは、一層華やかなものだった。

 右を見ても左を見ても、「プロツアーの」フィーチャー・テーブルで見るような顔ばかり。現地を訪れた日本のプレイヤーたちは、画面の向こうでしか見られなかったトップ・プロたちの姿を目の当たりにして、あるいは直接対峙して、衝撃を受けたことだろう。現地にいない方も、生放送やテキスト・カバレージで続々と登場するプレイヤーに、とてもグランプリとは思えないものを感じ取れたはずだ。

 プロツアーは最上級の招待制イベントであり、参加するだけでも容易いことではない。だからプロツアーで活躍するようなプレイヤーと普段手合わせをする機会はそうない。

 だがここはグランプリ。誰でも参加可能なマジックの祭典だ。

 ゆえに起こり得る。あまりに偉大なプレイヤーとまだ実績の少ない次世代プレイヤーによる「真剣勝負」が。

 ウィリアム・ジェンセンは、グランプリ・トップ8という輝かしい舞台に当たり前のように存在していた。これで自身24度目のグランプリ・トップ8入賞となるジェンセンは殿堂顕彰者でもあり、すなわち彼にとってはプロツアーでさえも当たり前の舞台なのだ。

 そのジェンセンに対峙する木原 惇希にとっては、プロツアーは当たり前の場所ではない。昨年のグランプリ・千葉2016で準優勝という成績を収め頭角を顕し始めた彼は、プロツアー『霊気紛争』で「世界」を体験したのちも挑戦を続け、今回のトップ8入賞で再びプロツアーへのチケットを掴み取った。気づけば目の前にシルバー・レベル・プロへの道も開けていたが、しかしそこへ通じる門を通る条件は「優勝のみ」と極めて狭かった。

 それでも木原はプラチナ・レベル・プロのパスカル・メイナード/Pascal Maynardを下し、同じくプラチナのマーティン・ミュラー/Martin Mullerも破って突き進んだ。彼の前に立ちはだかるのはあとひとり。ジェンセンと向き合って座った木原は奮い立ったことだろう。「ラスト・ボスにふさわしいじゃないか」と。

 グランプリには、グランプリの物語がある。

 今大会は単に「プロツアーの前哨戦」ではなく、今この決勝テーブルに座る両者が記録する、歴史の1ページなのだ。

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木原 惇希(青黒) vs. ウィリアム・ジェンセン(黒緑)

 序盤は両者とも《廃墟ネズミ》を繰り出し、それらを相討ちに。その後ジェンセンは3ターン目に《オベリスクの蜘蛛》を展開するものの、ここから2ターン土地が止まってしまう。

 しかしその間木原にも動きはなく、ジェンセンは4枚目の土地を引き込み《オアシスの祭儀師》を追加。そのターンの終了時に《敏捷な妨害術師》を繰り出すと、木原は迎えたターンで攻撃に向かわせた。

 ジェンセンはこれを《オベリスクの蜘蛛》で受け止めるが、木原は《華麗な苦悶》でジェンセンの2体のクリーチャーに-1/-1カウンターを置いて《オベリスクの蜘蛛》の突破に成功した。

 木原はさらに《呪文織りの永遠衆》を盤面に加えてターンを返したが、そこへジェンセンの《華麗な苦悶》が突き刺さる。ジェンセンはこのターンさらに《不憫なラクダ》を追加し盤面の優位を得ると、続くターンには《採石場の運び屋》、《ホネツツキ》と展開を進め、《川蛇》と《呪文織りの永遠衆》を展開した木原にプレッシャーをかける。

 木原は《致死の一刺し》で《オアシスの祭儀師》を除去しようとしたが、ジェンセンは《超常的耐久力》でそれをかわした。続くターンには《イフニルの魔神》も加わり、一方ここにきてマナ・フラッドに悩まされる木原は有効な手を打てない。

 ジェンセンは全軍で攻撃。クリーチャーを1体失ったものの一挙10点ものダメージを与え、木原は追い詰められた。

 ここで木原は《永遠の刻》を放ち、3体の「永遠衆」で一気に盤面を回復した。だがそれでも《立て直しのケンラ》を加えた再びの全軍攻撃は防ぎ切れず、かろうじてライフを1点残してアンタップを迎えるのみだった。最後のドローを確認した木原は、静かにカードを片付けた。

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グランプリ決勝でもプロツアーでも、長い経験と実績の積み重ねに裏打ちされたジェンセンのプレイに淀みはない。

 第2ゲーム、木原は2ターン目《廃墟ネズミ》から3ターン目《忌まわしい生き残り》、そして4ターン目《よろけ腐り獣》と、サイドボーディング後に見事なビートダウン・プランを見せた。

 一方のジェンセンは3ターン目まで動きがなく、4ターン目に繰り出された《オアシスの祭儀師》に対して木原は攻撃を続ける。《よろけ腐り獣》は《オアシスの祭儀師》と相討ちに倒れたものの、木原はジェンセンのライフを脅かしながら2体目の《廃墟ネズミ》を展開し、プレッシャーをかけ続けた。

 ジェンセンが《採石場の運び屋》を戦場に送り出してターンを渡すと、木原はターンの終了時に《敏捷な妨害術師》を瞬速で繰り出し、返しの攻撃でさらに5点。ジェンセンの残りライフはひと桁に落ち込んだ。

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グランプリ・千葉2016で取り逃した「優勝」の栄誉、賞金、そしてプロツアーへの参加回数が一気に増えるシルバー・レベルのステータス――多くのものが懸かったこの試合に、木原は持てる力を注ぎ込む。

 なおも《狡猾な生き残り》を戦線に加える木原に対し、ジェンセンは《ホネツツキ》を盤面に加えて耐え忍んだ。木原の全軍攻撃でジェンセンの残りライフは4点。《謎変化》も加えて盤面の優位は変わらず、このまま押し切れる......

 はずだった。

 「サイクリング」でドローを進めたジェンセンは、迎えたターンに《イフニルの魔神》を引き込んだ。

 そして彼の手札には《よろけ腐り獣》の姿も。木原は《華麗な苦悶》で《イフニルの魔神》に-1/-1カウンターを置いた上で攻撃したが、ジェンセンが《よろけ腐り獣》を「サイクリング」したことで状況は一変。木原の戦力は失われ、悪夢の如き《イフニルの魔神》を相手にすることになった。

 ジェンセンの残りライフはわずか2点。しかしその2点が、あまりに遠い。

 ジェンセンは《スカラベの巣》を貼り、ターン・エンド。木原は《謎変化》の占術を起動してドローの質を高める。ターンを迎えたジェンセンは《立て直しのケンラ》を繰り出し、ついに反撃に出た。

 5点のダメージを立て続けに受けた木原は、虎の子の《霰炎の責め苦》を放った。ジェンセンはこれに対応して《毒の責め苦》を自身の《立て直しのケンラ》へ撃ち込み、-1/-1カウンターが置かれたことで《スカラベの巣》が誘発。木原の《霰炎の責め苦》はこれで生まれた昆虫・トークン2体と《スカラベの巣》そのもの、そしてジェンセンの残る手札を捨てさせるに留まった。

 そして残ったジェンセンの盤面に「永遠」で戻ってきた《立て直しのケンラ》の能力が加わると、木原の残りライフ10点がちょうどなくなる計算。

 最初から最後まで圧巻のプレイを見せたジェンセンが、グランプリ・京都2017王者として君臨することになったのだった。

木原 0-2 ジェンセン

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 「あと1点が!」とシルバー・レベルに到達できなかった悔しさを表に出した木原。この悔しさは、そして今大会での濃密な経験は、必ずや来シーズンの彼を動かす強い原動力となるだろう。

 ジェンセンは木原に、「ここで権利を獲得したプロツアーでまた会おう」と声をかけ、颯爽とトロフィー・ショットの撮影に向かった。

 そう、戦いは次の舞台――プロツアーへ。

 木原がジェンセンと再会できるのはさらに次のプロツアー『イクサラン』となるが、ジェンセンの方は来週、再び世界最高峰の戦いへ赴く。

 特に気負いもなく、それが当たり前であるように。

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ウィリアム・ジェンセン、グランプリ・京都2017優勝おめでとう!
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RESULTS

対戦結果 順位
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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