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グランプリ・静岡2017秋

観戦記事

第1回戦:チーム 齋藤/小澤/熊谷 vs. チーム 瀧村/市川/松本

By Genki Moriyasu

「静岡に昇る太陽と仙台の星」

 75分のデッキ構築を終えて対戦組み合わせが発表された午前11時ごろ。

 フィーチャー卓で相対して着席する、2つのチームがあった。

 片方は会場の内外と問わず、圧倒的なまでに注目されているチームだ。

 今回、エントリーフォーマットにおいてチーム名の提出はないが、彼らが以前に使ったチーム名を知らないプレイヤーは数少ないだろう。

 「The Sun」。

 チームメンバーを簡単に紹介しよう。

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「世紀のデッキビルダー」。

 市川にデッキを託し、また自らのオリジナル・デッキでも数多の戦績を残している。

 そしてリミテッドでの戦闘力は彼に勝る者なしとされている。

 一見、背反しそうな2つの評価だが、どちらも、カードを評価する能力の絶対的な高さに由来している。

 グランプリ・千葉2015では史上屈指の参加者数のなか、『モダンマスターズ 2015年版』という屈指の高難易度環境リミテッドを制覇している。

 松本 友樹。


 勢いのある発言で普段から注目されがちだが、なにより理論的な構築力とプレイングがプレイヤーとしての特徴だろう。

 2015年、2016年にはそれぞれグランプリを優勝している。

 彼以降も新世代のプレイヤーたちは頭角を現してきているが、それでも「ライジング・スター」と言えばこの人だ。

 市川 ユウキ。


 チーム戦の大会で表彰台に上がった回数は数えきれず。

 「チーム戦最強」。世界で唯一、その看板を持つ男。

 個人戦績の「プロツアー『戦乱のゼンディカー』優勝」もまた、彼が勝つべきときに勝つプレイヤーであることを示す。

 瀧村 和幸。


 松本/市川/瀧村。

 個々でも最強と目されるプレイヤーたちが、互いを信頼し、信用し、信じ、結集した。

 「The Sun」は今回と同じくチームリミテッドのグランプリ・京都2016で優勝している。

 直近の同フォーマット・グランプリでの優勝チームであり、必然、優勝最有力候補と目されている。

 プレイヤーたちの期待と羨望の視線を受けながらも、3人は今後を占う緒戦を油断することなく、まっすぐ相手を見据えていた。

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......「The Sun」と相対する3人も、情熱に燃えた眼差しでプロの熱意に応えていた。

 マジックは戦績では決まらない。マジックの勝敗は、目の前のマジックで決まるのだ。


 熊谷/小澤/齋藤。

 まして、彼らに対するチームのC卓には熊谷 陸が座する。

 グランプリ・東京2016優勝のプロ・プレイヤーだ。

 グランプリこそスタンダード構築戦のタイトルだが、プロツアーへの参戦も継続しており、ドラフトの安定した実力の高さはプロ間でも非常に注目されている。

 ドラフトを学びたくば熊谷 陸のMO(Magic Online)から学べ......

 その認識を持つ競技プレイヤーは日々増えていっている。

 今回のチーム戦ではBye(不戦勝)システムがないことから実現した、緒戦からのプロ対決だ。

 もちろん熊谷とともにグランプリに出場する小澤 毅、齋藤 悠も要注目だろう。

 特に小澤は競技大会にも通じており、熊谷にとって厚いバックアップとなる。

 地元・仙台コミュニティの集まりだと話すが、間違いなく実力者の集まりだ。

 仙台の星、熊谷 陸。

 冷静沈着、屈指のポーカーフェイス・プレイヤーで知られる彼の新たな面を、チーム戦を通して見ることはできるだろうか。

r1_saito_ozawa_kumagai.jpg

......発売日翌日という、ある種最難関とも思える『イクサラン』シールド環境。

 この環境への最適解に近いデッキを用意できたのは、はたしてどちらのチームか。

 グランプリ・静岡2017秋、ついに闘いの火蓋が切って落とされる。


A卓 齋藤(緑白恐竜) vs. 瀧村(白黒吸血鬼) ゲーム1

 今回の『イクサラン』はアーキタイプ環境と評されている。

 恐竜、海賊、吸血鬼、マーフォーク。

 この4部族いずれかを中心にした構築であれば、適した色に散在するシナジーカードが有効に機能しやすいようだ。

 瀧村は白黒の吸血鬼。

 構築中では赤黒の海賊も検討に上がっていたようだが、果たしてどう動くのか。

 対する齋藤が選択した緑白恐竜はライフ回復を中心にしたランプ戦略だ。

 ゲーム1、流れの趨勢を決めたのは、最速の1ターン目となった。

 齋藤の《覚醒の太陽の神官》だ。

 恐竜・カードを毎ターン公開することで、齋藤のライフは極厚の壁と化していた。

 ライフを貯める間も着実に《貪欲な短剣歯》、《不動のアルマサウルス》、《輝くエアロサウルス》と、恐竜を並べてゆく。

 攻撃こそ敢行しにくいが、戦力は順調に整ってゆく。

 超ロングゲームを支える《覚醒の太陽の神官》による「負けない」戦い方だ。

 瀧村の吸血鬼は比較的線が細いクリーチャーを絆魂や飛行、一時的なパワー修整のような能力でサポートしつつ、きわどいライフレースを制するというような形だ。

「《海賊のカットラス》を装備した《軍団の飛び刃》を、《選定された助祭》でアタッカーに仕立て上げる」

 という白黒吸血鬼では指折りの勝ちパターンを形成するも、飛行や到達を有する生物たちを前に絶対的な支配権を握れない。

 どちらも展開を続けながらも、絶対的な打開策がない膠着状態が続いた。

 やがて齋藤がライフ差を盾にじりじりと瀧村を崖に追い詰め、差し切った頃には既にB卓・C卓は2ゲーム目を終えようとしていた。

齋藤 1-0 瀧村


B卓 小澤(赤黒海賊) vs. 市川(青緑マーフォーク) ゲーム1

 市川は青緑のマーフォークだ。

 単体でも強烈な《自然形成師》をキーカードにしつつ、部族シナジーを全面に活用する。

 小澤の赤黒海賊は、強襲能力を前提にした戦闘を繰り広げ、攻勢を続けるアグロデッキだ。

 実際のゲームは《見習い形成師》から《セイレーンの見張り番》、《川潜み》と市川が続けた。

 《反復連射》を筆頭とした火力呪文で戦線を均そうと目論む小澤だが、ライフレースをつくるためのアタッカーの準備が間に合わない。

 《荒くれ船員》が戦場に着地するころには、市川は小澤の最後のライフ数点を削りきる算段を終わらせていた。

小澤 0-1 市川


C卓 熊谷(青緑マーフォーク) vs. 松本(赤緑恐竜) ゲーム1

 松本は赤緑の恐竜を選択していた。

 「激昂」メカニズムを軸にサポートカードが充実したミッドレンジデッキだ。

 熊谷は市川と同じく、青緑マーフォークだ。

 緑という共通の色を持ちながらも、大きく戦法の異なるアーキタイプ同士の戦いは、熊谷が《深根の戦士》から展開を始め、怒濤の勢いで6体までマーフォークを並べるところまでノンストップで進む。

 対する松本は手数こそ多くないが《葉を食む鞭尾》、《猛竜の群れ》、《怒り狂う長剣歯》と、戦線をピッタリ止めるワンサイズ大きいクリーチャーたちを展開して、ピラニアのように凶暴な魚たちの牙から硬い鱗で自らの身を守ってゆく。

 盤面がそこで膠着してからは、1体1体のサイズが大きい松本が次第に戦況をまくり返した。

熊谷 0-1 松本

C卓 熊谷(青緑マーフォーク) vs. 松本(赤緑恐竜) ゲーム2

 続くゲーム2でも、ゲーム1と同じように熊谷がクリーチャーを並べる展開となった。

 《マーフォークの枝渡り》、《イクサーリの守り手》から《風雲艦隊のスパイ》。展開しつつも手札をほとんど減らさないアドバンテージ・クリーチャーを続ける。

 対する松本は......土地にも展開にも繋がらないドローが続き、《オテペクの猟匠》をチャンプ・ブロックに回して凌ぐ戦況だ。

 先ほどのように身の厚いクリーチャーでなければ、横並びの攻勢を受け止めきることはできない。

 松本が打開策を見出すより早く、熊谷のクリーチャーたちの打点が合計20を数えた。

熊谷 1-1 松本


B卓 小澤(赤黒海賊) vs. 市川(青緑マーフォーク) ゲーム2

 初手は1マナ2/2こと《クメーナの語り部》。次手は《自然形成師》。さらに《深根の水域》を展開して、マーフォークらしさを前面に示す市川。

 これに《立ち枯れの守り手》を種にしたクリーチャーの強襲で応える小澤。《巧射艦隊の略取者》、《風雲艦隊の紅蓮術士》で手札と盤面を攻めてゆく。

 さらに《海賊のカットラス》の装備コストを踏み倒して《風雲艦隊の紅蓮術士》を育てたところで、攻守が逆転となったようだ。

 それでも《風を跨ぐ者》《大気の精霊》というフライヤーで盤面を取り返しにかかろうとする市川。

 戦闘ダメージと2枚目の《風雲艦隊の紅蓮術士》の合わせ技で《大気の精霊》は落とされるものの、《深根の水域》が生み出してきたマーフォーク・トークンたちが小澤のライフを奪っていく。

 手札が空の小澤に突き付けられた盤面は、次のドロー1枚で2体の呪禁を持つ1/1マーフォークの攻撃を凌がなければならないという、難問。

 赤黒海賊にトークン生成の呪文は割り当てられていない。除去は当たらない。

 市川も、そして小澤もこの盤面を取り返せる呪文がごくごく一部しかないことは承知していた。

 そして......小澤は知っていた。自らのデッキに、この戦況を凌ぎうるカードが入っていることを。

 《流血の空渡り》。

 非常に優秀な吸血鬼・カードだが、小澤のチームで吸血鬼を利用した者はいない。

 単体として優秀なカードとして、ここに組み込まれていた。

 ライフを回復し、ブロッカーを用意し、トークンの猛攻を凌ぎきって残りライフ1点を死守した小澤が逆転勝利を収めた。

小澤 1-1 市川


C卓 熊谷(青緑マーフォーク) vs. 松本(赤緑恐竜) ゲーム3

 ゲーム2では良いところを見せられなかった《オテペクの猟匠》でスタートする松本。《ティロナーリの騎士》からの《葉を食む鞭尾》速攻というロケットスタートを切って恐竜の本領発揮だ。

 熊谷も《見習い形成師》でマーフォークを並べる悪くないスタートだが、《オテペクの猟匠》に干渉できないため松本の展開の全てが速攻で押し迫ってくる。

 《見習い形成師》を松本が《アゾカンの射手》で落として、恐竜の勢いを保ち続けてゲーム・エンドとなった。

熊谷 1-2 松本


 スピーディな展開が続いた松本vs熊谷戦。

 終わったときには、隣の小澤vs市川はこれからゲーム3を始め、齋藤vs瀧村はゲーム2の進行中だ。

B卓 小澤(赤黒海賊) vs. 市川(青緑マーフォーク) ゲーム3

 お互いにマリガンで始める。

 《》《》でストップしたところで市川に不穏な空気が漂い始める。

 しかし、その空気は小澤にも伝染していた。《》2枚でストップ。

 戦場に出せるクリーチャーも、後続の土地も引かないということがお互いに数ターン続いたあと、先に動き始められたのは市川。《深根の戦士》を展開。さらに《》を引いたことで、小澤の盤面が空の状態にもかかわらず《水罠織り》も追加で投入。さらに《ティシャーナの道探し》で4枚目の土地にもたどり着く。

 市川は安堵の、小澤は不運のため息をついて、ゲームが締めくくられた。

小澤 1-2 市川


 ゲーム2を続けるA卓の齋藤vs瀧村を残して、チーム瀧村/市川/松本の勝利が決まった。

 瀧村/市川/松本に寄せられた全体の期待からみれば、第1回戦に勝つという言葉は当然のものかもしれない。

 しかし内訳をよく見れば一方的なマッチはなく、どちらに揺れるともしれないシーソーゲームの連続であった。

 あと一歩だけ瀧村/市川/松本に届かなかった齋藤/小澤/熊谷チームだが、試合が終わった後の感想では「相手が悪かった」と笑いながらも、全員ともにトップ4進出を強く志していると口にした。

 仙台の星は、いまだ強く輝きつづけている。

......構築の段階で「このプールをもらったからには、全勝したいよね」と話していた瀧村/市川/松本たちは快進撃を続けるだろう。

 齋藤/小澤/熊谷たちも、それに続く成績で勝ち進むことができるだろうか。

 期せずして注目の選手が集合したフィーチャー・マッチ第1回戦は、今後、これ以上に熾烈な戦いが会場中で繰り広げられることを見る者に予感させて、幕を閉じた。

チーム 瀧村/市川/松本 Win!
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RESULTS

対戦結果 順位
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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