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グランプリ・シンガポール2015

戦略記事

デッキテク:行弘 賢の「おやつカンパニー」

by 伊藤 敦

 モダン環境の新たな発想は、優れたデッキビルダーによって生み出される。

 プロプレイヤーたちにとっては2014-2015シーズンの終盤、1点でも多くのプロポイントが欲しいこの時期に、ゴールドレベルの維持に腐心するプロプレイヤー・行弘 賢がグランプリに持ち込んだ起死回生の意欲作は、ストレージの片隅に眠っていそうなコモンを大量に搭載したデッキだった。

 さっそく、行弘の新作デッキ「おやつカンパニー」についてインタビューしてみよう。

decktech_yukuhiro.jpg

――このデッキはどういった経緯でできたんでしょうか?

行弘「まず前回のモダンのプロツアー『運命再編』ではアブザンジャンク(またの名を奈良ZOO)を使用したんですが、それで負けてしまって、モダンはコンセプトが強烈なデッキが多く、対応するのがかなり難しいという結論を得たんです」

――確かにモダンにおいてはProactive(=対応を迫る)デッキとReactive(=対応する)デッキの対立構造はよく話題になるところですね

行弘「そこで、今回のグランプリでは自分にぶん回りがあって、相手に対応を迫るデッキが使いたいと思って、何かないかと考えたところ、プロツアー『運命再編』で《戦列への復帰》を使用したDavid Heinemanのローグデッキが活躍していたことをを知って、《復活の声》はすごく好きなカードなので、これだ!と思って調整を始めました」

――こんな面白そうなデッキがあったんですか

行弘「そう、ワクワクするレシピでしょう。でもコピーして使ってみたら全然勝てなくて(笑) でも他のデッキに浮気したりしながらも諦めずに調整を続けて、ある日ふと《極楽鳥》を4枚搭載したら勝てるようになったんです」

――それがブレイクスルーになったと。

行弘「そうですね。そこからサイドボードを練り直して100人規模のPPTQ(プロツアー予備予選)の決勝戦に進出するところまで行き、デッキのポテンシャルが十分通用することがわかったので、シンガポールでのこのデッキの使用を決めました」

――あれ、でもデッキリストには《極楽鳥》は入ってないみたいですが......

行弘「出発の3日前くらいに、一緒に調整していた友人から『《極楽鳥》が弱い』と指摘を受けて、代わりに何が良いか聞いたら《サテュロスの道探し》を提案されて、試してみたら感触が良かったので差し替えました」

――スタンダードでは大活躍しているカードですが、モダンでも強いんでしょうか?

行弘「《臓物の予見者》のような『サクり台』を引いていなくても《戦列への復帰》が運用できるようになるので、結構強いですね」

行弘 賢
グランプリ・シンガポール2015 / モダン[MO] [ARENA]
1 《
1 《平地
1 《
1 《寺院の庭
2 《剃刀境の茂み
1 《草むした墓
2 《神無き祭殿
1 《孤立した礼拝堂
4 《吹きさらしの荒野
3 《湿地の干潟
3 《新緑の地下墓地
1 《ドライアドの東屋

-土地(21)-

4 《宿命の旅人
4 《臓物の予見者
3 《ツカタンのサリッド
4 《血の芸術家
4 《サテュロスの道探し
4 《復活の声
3 《潮の虚ろの漕ぎ手
1 《カルテルの貴種
1 《永遠の証人
1 《オルゾフの御曹子、テイサ

-クリーチャー(29)-
4 《戦列への復帰
3 《アブザンの隆盛
3 《集合した中隊

-呪文(10)-
4 《ブレンタンの炉の世話人
1 《潮の虚ろの漕ぎ手
2 《オルゾフの司教
1 《静寂の守り手、リンヴァーラ
3 《流刑への道
3 《精神染み
1 《幽霊街

-サイドボード(15)-

――このデッキは実際どんな動きをするんでしょうか?

行弘「墓地に落ちたときにトークンが出る《宿命の旅人》《ツカタンのサリッド》《復活の声》で戦闘したり《臓物の予見者》で生け贄に捧げたりすることで頭数を増やしていき、《戦列への復帰》で一気に場に戻すことで圧倒的な盤面を作って勝つ、というものです。脇に《血の芸術家》がいればクリーチャーを片っ端から生け贄に捧げているだけでも勝てますし、《アブザンの隆盛》を設置してビートダウンで勝つこともあります」

――それだけだとあまり他のモダンのコンボデッキに勝っているように見えないのですが、このデッキのどういった要素が良いと判断したんでしょうか?

行弘「まずこのデッキはフェアデッキ、対応する側のデッキと当たるとほとんど負けないんですよね。粘り強いカードが多い上にクリーチャーが横に広がって単体除去が効きづらいので。そういったデッキ、例えばジャンド/アブザンジャンク/グリクシスコントロールなどですが、メタゲーム上に30%ほど存在しているので、そのあたりに自動的に勝てるのはかなり大きいです」

――でも例えば残り70%のコンボデッキに自動的に負けたら意味がないですよね?

行弘「確かにこのデッキは一見スピード勝負では不利に見えますが、相手への干渉も《潮の虚ろの漕ぎ手》でできないこともないですし、見た目よりはキルターンが早いデッキなので、メインは若干不利は付きますがサイドまで含めれば十分勝負になります。ぶん回りがあるフェアデッキという立ち位置なので、トロンやアミュレットブルームなどの土地絡みのコンボ以外には極端な不利は付かないと思います」

――ところで、どうして『おやつカンパニー』なんですか?

行弘「《臓物の予見者》がおやつみたいなクリーチャーをポリポリ食べていくイメージですね。おやつがなくなったら、《戦列への復帰》で『おかわりもありまっせ』っていう(笑)」

――なるほど。自信のほどはいかがでしょうか?

行弘「1か月くらい調整したので、最近のトーナメントの中では、かなり自信がありますね」

――ありがとうございました。


 綿密な調整の末に臨んだモダングランプリで、はたして行弘はプロポイントを獲得してゴールドレベル到達への弾みをつけることができるか。

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