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【戦略記事】 月を目指せ

【戦略記事】 月を目指せ

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Nate Price / Tr. Tetsuya Yabuki

2014年2月22日

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 モダン環境に存在するデッキは驚くほど多彩で、あらゆるスタイルのものがある。しかし、だ。それらの多くは、ここまで培われてきた環境の構造に沿ったものだった。新しいカードが登場するたびに少しずつ調整は加えられてきたが、新カードがまったく新しいアーキタイプやデッキを生み出すことはまずない。他のデッキを上回るほどのものとなれば、尚更だ。モダンはおよそ考え得る限りどんな方向のデッキでも、それを駆逐するデッキが存在するフォーマットである。そしてこのプロツアーの舞台に立っているプレイヤーたちは、そういう強烈なプレッシャーの中でハイレベルな戦いへ挑むための選択を乗り越えてきているのだ。

 モダン環境をひっくり返せる者はいない。会場にいる名デッキビルダーたちの会話から、幾度となく繰り返された言葉だ。「モダン環境に一石を投じることができればプレイヤーたちのデッキ選択に革命が起きるが、そんなことを実現するとんでもないプレイヤーはいない」というのが、誰もが抱く考えだった。

 私の驚きが伝わるだろうか。チーム「MTG Mint Card」――アジアの英傑たちで結成されたこのチームが、モダン環境へ切り込む新たな道、特に《野生のナカティル》が戻ってきた現在の環境と噛み合う手段を見つけ出したのだ。アジアのスーパー・スターを集めたこのチームは「ブルー・ムーン」と呼ばれるデッキを操り、今大会を鋭く切り裂いた。8人中7人の使用者が2日目進出を果たしたのだ(クオ・ツーチン/Tzu Ching Kuoは惜しかった!)。この「ブルー・ムーン」は、日本の行弘賢がプロツアー『ラヴニカへの回帰』で使用したデッキが基になっている。行弘がチーム「MTG Mint Card」と調整を共にし始めると、彼はこのデッキの使用を持ちかけ、チームはそのアイデアを気に入った。

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チーム「MTG Mint Card」は、「ブルー・ムーン」という超革新的デッキをプロツアー『神々の軍勢』へ持ち込んだ。基本でない土地がマナ基盤を支えるこのフォーマットを《血染めの月》で咎め、青い呪文でゲームをコントロールする強力なデッキだ。

「本当に様々なデッキをテストしたよ」香港のリー・シー・ティエン/Lee Shi Tianが切り出した。「12個くらいのデッキを試したかな。それでも、好きになれるものはなかったし、すべて《血染めの月》に負けることがわかった。そこへ行弘が『ブルー・ムーン』を持ってきたんだ。まさに完璧だった」

 今大会では「Zoo」が大きな勢力を持つと予想されており、それもまた「ブルー・ムーン」への追い風になったという。

「《野生のナカティル》解禁を受けて、『Zoo』を選択するプレイヤーが多いとにらんでいました」と、行弘が解説する。「『Zoo』が採用している土地のほとんどが基本でない土地だから、《血染めの月》がかなり強いんです」

 デッキ名の由来となっている《血染めの月》に加えて、この「ブルー・ムーン」は実質的に青単のコントロール・デッキの形をとっている。《ヴィダルケンの枷》、《不忠の糸》、そして《蒸気の絡みつき》は、アグレッシブなクリーチャー・デッキとクリーチャーを用いるコンボ・デッキの両方に効果的だ。コントロール・デッキには《血染めの月》を通すために打ち消し呪文を活用し、それが通れば反撃を大きく抑えることができる。

「アグレッシブなデッキだけでなく青いデッキも倒せるデッキが欲しい、と意識していました。それらをどうにかできないかと考え、《血染めの月》に至ったんです」

 最初は「青赤デルバー」デッキの形をとっていた「ブルー・ムーン」だが、行弘は《血染めの月》をサイドボードではなくメインに投入する方が強いことに気づいた。

「《血染めの月》を毎回サイド・インしていたんですよね」と、行弘は当時を思い出す。「何度も繰り返すうちに、メインから使うべきなんだと判断しました」

「もろいマナ基盤を攻める」という方針は、マジック黎明期から存在していた。過去にも《基本に帰れ》、《沸騰》、《不毛の大地》、《窒息》と、プロツアーに大きな影響を与えてきたカードはある。《血染めの月》は連綿と続くこの手のカードのひとつでありながら、他にはない長所がある――これが効く相手の多さだ。マジックは長い年月を経て、大量の基本でない土地を生み出してきた。プレイヤーたちはそれらの恩恵を受け、豊富なマナに甘やかされてきた。基本でない土地の多くが使えるモダンのようなフォーマットでは、笑えるほどにマナ基盤が安定している。「ドメイン・ズー」は4色か5色のアグレッシブなクリーチャー・デッキだが、このデッキですら自由自在にそれぞれの呪文を使えるのだ! しかしその代償として、マナ基盤は基本でない土地に頼りきっており、突如現れる《血染めの月》に無防備なのだ。

基本でない土地には《血染めの月》、基本土地には《広がりゆく海》。これらふたつのエンチャントが、マナ基盤をはさみ撃ちにする戦略の強さを証明した。

「《広がりゆく海》は、特に《血染めの月》が通ったあとに強力なんだ」と、リー。「攻めが成功したら、復帰を許さない。動きが止まっている間にやっつける」

 また、《天界の列柱》のようなクリーチャー化する土地を使うデッキに対しては、《広がりゆく海》は一石二鳥の活躍ぶりを見せる。元々《広がりゆく海》は、安定したマナが必須となる「ジャンド」への対策として、偉大なデッキビルダーであるジェリー・トンプソン/Gerry Thompsonが打ち出した名案だった。彼は「ジャンド」には呪文のプレイを阻害すれば勝てると判断し、その戦略は大成功を収めたのだ。

 それから勝ち手段の話だが、「ブルー・ムーン」は《殴打頭蓋》と《波使い》の純粋なカード・パワーに任せている。《殴打頭蓋》はその手札に戻る能力で大抵の除去をかわすことができ、対処が極めて難しい。ゲームを終わらせるスピードも速く、2回か3回攻撃を加えれば勝利を得ることが多い。それでも、単純にゲームを終わらせる速さで言えば《波使い》に勝るものはないだろう。たとえ「信心」がひとつかふたつでも、《波使い》は最小限のマナで最大限のパワーを生み出すのだ。《稲妻》が極めて多く使われるモダンにおいては、プロテクション(赤)も馬鹿にできない。防御に回る場合でも、これら2枚は素早く隙を埋めてくれるのだ。

 チーム「MTG Mint Card」は次々とこのデッキを上位へ送り込み、このデッキの力を証明した。この記事を書いている時点では、リーがトップ8入賞をかけた戦いの最中にあり、行弘と他のメンバーも上位に食らいついている。今大会に革新的な戦略が現れるとは予想していなかったプレイヤーたちにとって、「ブルー・ムーン」は「モダンのような凝り固まったフォーマットにおいて、どのように変革の余地を生み出すか」、という問いへの解答として燦然と輝いているのである。

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