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プロツアー『異界月』

観戦記事

第5回戦:Luis Scott-Vargas(アメリカ) vs. 市川ユウキ(日本)

青木 力
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Marc Calderaro / Tr. AOKI Chikara

2016年8月5日


ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargas(バント・カンパニー) vs. 市川ユウキ(4色「現出」)

(デッキリストは第16回戦が開始してから公開されます。)

 この対戦はプロツアー全体を定義づけるかもしれないかのように仕組まれた。世界ランキング5位のルイス・スコット=ヴァーガスは市川ユウキと対戦することになり、デッキもこれ以上に違うものはない。

 最新鋭の何から何まで入っている市川の新しいデッキに対して、頼りがいのあるバント・カンパニーのスコット=ヴァーガス。多くのプレイヤーが強敵を打ち破れるものとしてバント・カンパニーを選んだが、彼らはこのプロツアーでそれを実際に証明しなければならない。

 プロツアー殿堂のスコット=ヴァーガスは「当たり年」のままシーズンを終えようとしている。5年ぶりのプロツアー・トップ8入りの直後、すぐにもう1度、彼にとっては7度目となるトップ8をつかみ取ったのだ。世界選手権の殿堂枠レースをリードしており、加えて新しく父親になって初めてのイベントでもある! スコット=ヴァーガスにとってこれらは素晴らしい年の出来事であるが、彼はさらにその先を強く見据えている。長年の彼のチーム、チーム「ChannelFireball」は今年、チーム「Ultra PRO」とテストプレイをして、対戦相手をなぎ倒す準備をしてきた。

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ルイス・スコット=ヴァーガスは、今シーズンもう一つの結果を戦績に追加しようとしている。

 チーム「Cygames」の市川はわずかに戦績が及ばないものの上昇傾向にあり、2度のプロツアートップ8はまったくみすぼらしくないものだ。今大会はプラチナ・レベルを見据えており、4色現出デッキはそうなるのにうってつけかもしれない。この試合が始まる前の彼の戦績は3勝1敗だ。

「プロポイントはあと何点足りないんだい?」 シャッフル中にスコット=ヴァーガスが対戦相手に尋ねる。

「今39点だから4敗1分けが必要だね。」 市川が答える。彼にとっては実質トップ8みたいな成績だ、との冗談が出る。

 もしトップ8に残れなかったとしても、プラチナ・レベルになれるなら市川は満足だろう。

 市川は信じられないような、まったく新しい戦略のデッキを使う。「4色現出」とはいうものの、それはミスリーディングを誘うもので、実態はスゥルタイ「現出」に唱えられない《コジレックの帰還》が入っている。そもそも市川のデッキには唱えることを考えていないカードが多数含まれている。《憑依された死体》と《秘蔵の縫合体》は手札から唱えるより、墓地から蘇るほうがはるかに多い。市川は最初《コジレックの帰還》を唱えるために《》を1枚入れていたが、色マナ不足のために取り除いてしまった。《コジレックの帰還》は墓地からのみプレイされる。

 このデッキはバント・カンパニーを強く意識している。《コジレックの帰還》をできるだけすばやく墓地に送り、《老いたる深海鬼》を唱えて戦場をきれいにして、残ったものをタップしてしまうのがバント・カンパニーを倒す方法であると市川は教えてくれた。それが基本のキ、であることも。

 《群れの結集》と《過去との取り組み》が日本人プロの設定した目標を手助けしてくれるが、これはあくまで達成されなければいけないものである。それをバント・カラーの小型クリーチャーたちがインスタント・スピードで妨害することになるだろう。

ゲーム展開

 最初のゲーム、市川がキープしたのは《コジレックの帰還》、《群れの結集》、2枚の《老いたる深海鬼》と土地。若干怪しいものの、最初の数ターンはやることだらけだった。《群れの結集》と《過去との取り組み》を唱え、喉から手が出るほど欲しかった《秘蔵の縫合体》を2枚墓地に送り込んだ。市川はスコット=ヴァーガスのアップキープ、2ターン目に出された《薄暮見の徴募兵》が《爪の群れの咆哮者》に変身した後に《過去との取り組み》を唱える。

 良いスタートを切った市川はバント・カンパニーが戦場で真骨頂を発揮する中盤戦までに布石を打っておく。

 《ヴリンの神童、ジェイス》と《首絞め》を出した市川は、スコット=ヴァーガスが終了ステップに唱えた《集合した中隊》を指で銃を作って「バーン」としながら解決を許可する。ここで《反射魔道士》が2体飛び出てきて市川のブロッカーをとても薄くしてしまう。

 すぐに市川は《憑依された死体》を見つけたが特に何もせず。スコット=ヴァーガスが攻撃して与えた8点でライフは7に落ち込む。市川にはゲームを長引かせる方法があったが、もう一度攻撃をしのがなければいけない。

 スコット=ヴァーガスが《不屈の追跡者》、《薄暮見の徴募兵》、《無私の霊魂》、2体の《反射魔道士》で、《ヴリンの神童、ジェイス》1体しかブロッカーのいない市川を攻撃する。

 市川は《コジレックの帰還》を捨てつつ《憑依された死体》を戦場に戻してスピリット・トークンを生み出し、ブロッカーを確保して生き延びようとする。スコット=ヴァーガスは《ドロモカの命令》で2体目のブロッカーをインスタント・スピードで除去して必要な分のダメージを通す。市川がゲームをひっくり返すにはもう半ターンが足りなかった。

 ゲームとゲームの間、2人はサイドボーディングをほとんど行っていない。スコット=ヴァーガスが土壇場で2枚の《ドロモカの命令》を《オジュタイの命令》に変えた以外、2人ともサイドボードをすべてデッキと混ぜて、何枚交換したかを分からないようにしている。

 第2ゲーム、スコット=ヴァーガスは一貫した計画を貫徹した。バント・カンパニーはクロックを作り出せば、第1ゲームと同じような展開を複製できる。しかし市川が先行し、《過去との取り組み》で《老いたる深海鬼》と《秘蔵の縫合体》を捕獲する。またも序盤は「Cygames」プロ有利に見えた。

 しかし《薄暮見の徴募兵》に続く《反射魔道士》が普通に唱えられた《秘蔵の縫合体》を手札に戻し、2枚目の《薄暮見の徴募兵》、《呪文捕らえ》が《秘蔵の縫合体》を追放すると逆転がなされる。スコット=ヴァーガスはいつもより素早くバント・カンパニーを走らせる。

 市川が唱えられない《コジレックの帰還》と《老いたる深海鬼》を見つめるあいだ、スコット=ヴァーガスは軽量クリーチャーで攻撃し続ける。次のドローが市川の命運を決定する。彼は《コジレックの帰還》を利用する方法を渇望した。

 市川は考えているときに口を手で覆っていた。

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何を引けば勝てるかを考える市川ユウキ。

 《コジレックの帰還》を捨てられる《首絞め》を引き込んだが、《老いたる深海鬼》を現出するにはかけ離れている。

 スコット=ヴァーガスは静かに攻撃を繰り返し、最少の防御でマッチスコアを2-0とした。それがとても簡単なことのように。

 市川は投了の意思を示すために手札を広げた。3枚の《コジレックの帰還》と2枚の《老いたる深海鬼》、1枚の《首絞め》。取り除かれた《》があれば、その時はうまくいったのだろう。肩をすくめてスコット=ヴァーガスと握手する市川。

 プロツアー殿堂表彰者は5-0となり、この当たり年に最後の大きな偉業を付け加えようとしている。

ルイス・スコット=ヴァーガスが市川ユウキを2-0で破る!
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RESULTS

対戦結果 順位
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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