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プロツアー『破滅の刻』

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ドラフト・マスターへの最終行程と勝利者インタビュー

青木 力
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Marc Calderaro / Tr. Chikara Aoki

2017年7月29日


 第2ドラフトが進行し、世界選手権への招待を懸けたドラフト・マスター・レースはプロツアー『破滅の刻』開始時からその様相を変えた。昨日の第1ドラフトで他の候補者が2-1以下の成績の中、可能性がほとんどないとされていたドナルド・スミス/Donald Smithが3-0したことにより、一躍射程圏内に戻ってきたことが一番の変化だろう。ドラフト・マスター・レースに押し入ってきたスミスは、それまでドラフトしたことのないアーキタイプである《王神の贈り物》と《来世への門》のおかげで第2ドラフトも良い位置につける。

 タイトル獲得はもちろんのことだが、スミスはこの2年の集大成である別の目的を思う。「プラチナ・レベルになるのには今日3勝が必要で、4勝すると世界選手権がほぼ確実になります。」 そしてチーム「Lingering Souls」のためにさらに上を狙う。

 スミスに押しのけられるまでは第9回戦開始時点で9人にチャンスがあったが、その数は急速に減っていった。

 第9回戦の後、トラヴィス・ウー/Travis Wooが星になった。第1ドラフトで1-2したあとも望みはあったが、敗戦をもう一つ重ねてしまいレースからの離脱を余儀なくされる。

「そこまで残念とは感じていないんだ。楽しかった。悪い気分にもなっていないよ。」 ウーはゆったりとした口調で前向きに捉え、切り替えていく。

 残る試合も少なくなり、短距離走が始まる。さらに世界ランキング5位のオーウェン・ターテンワルド/Owen Turtenwaldとスミスが敗れ、残る5人の名前はこちら。

  • ギリシャ出身のマキス・マツォカス/Makis Matsoukasはルーキー・オブ・ザ・イヤーも視野に入れつつチーム「Conflagreece」のシャツをまとう。
  • チーム「Massdrop East」のティモシー・ウー/Timothy Wuとチーム「MTG Bent Card」のクリチャン・カルカノ/Christian Calcanoは、二人とも去年も同じような位置につけていた。
  • 殿堂顕彰者で世界ランキング10位のパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaは9-0で順位表の最上位につける。
  • そしてプロツアー殿堂に選出された世界ランキング7位のマーティン・ジュザ/Martin Juzaが1マッチ分だけ全員からリードする。

 もしジュザがこのあと2-0すれば無敗のダモ・ダ・ロサを含めもうだれも追いつくことができない。ただし1敗でもすると計算がややこしいことになってしまう。

 ドラマは第10回戦で起きた。フィーチャーマッチエリアに5人中4人、ジュザ、カルカノ、ウー、ダモ・ダ・ロサが座ったのだ。

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2016-17ドラフト・マスターのタイトルを争う大半の選手が、第10回戦のフィーチャーマッチエリアで戦う。

 ダモ・ダ・ロサとカルカノは両者とも赤黒のデッキで素早くダメージを与えていく。デッキがうまく動いたダモ・ダ・ロサは藏田真太郎を倒して無敗を継続する。一方カルカノはエリアス・ワッツフェルト/Elias Watsfeldtとすべてのダメージを計算し2回の素晴らしいゲームを分け合ったが、第3ゲームはワッツフェルトの3ターン目の《誇り高き君主》がマッチを奪い去る。ティモシー・ウーは世界ランキング12位のマーティン・ミュラー/Martin Mullerに3体の4/4天使を出したが敗れてしまった。

 ジュザは世界ランキング14位、プロツアー『アモンケット』王者のジェリー・トンプソン/Gerry Thompsonとの対戦だ。ジュザは引きが冴えず、《サンドワームの収斂》も出したターン中に割られるが、マッチを2-0でとってリードを保つ。

 最後のドラフトラウンドの2戦目が終わり、マーティン・ジュザが1マッチ分リードしている。ダモ・ダ・ロサとマツォカスだけがジュザに並びうる。ジュザのチームメイトのコーリー・バークハート/Corey Burkhartは本日最初のマッチでマツォカスを倒し、ジュザのリードを固めた。

 ダモ・ダ・ロサとマツォカスは第12回戦を勝利したうえでジュザの敗北を祈るばかりである。その通り2人とも勝利したが、ジュザもまた勝利した。負けてもレースにはなったが、ジュザはフィニッシュラインを駆け抜けたのだ。

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2016-17のプロツアー・ドラフト・マスターは殿堂顕彰選出のマーティン・ジュザ!

 ドラマチックな勝利の後、生涯でも得難い週末を過ごしているジュザに話を聞いた。

「これ以上なんて無いんじゃないかな。人生で最高の週末だよ。」 いつもは無頓着なジュザが冗談で茶目っ気をにじませた。

「最終戦を勝てて本当によかった」 ジュザはラウンド直前のことを話す。「パウロと僕は揃って第10回戦を勝ったあと、デッキを見せあってお互いの可能性を探ったんだ。パウロのデッキを見て『明らかに次も勝つな』って思ったから、僕も次を勝たなくちゃいけなかった」

 ジュザは正しかった。ダモ・ダ・ロサは最終戦を簡単に取った。ダモ・ダ・ロサは勝ってからフィーチャーマッチ・エリアを横切り、同じく勝ったかどうかジュザに尋ねた。ジュザが頷くとダモ・ダ・ロサは目を大きく動かして言った。「そりゃあ勝つよね」

 マーティン・ジュザが、会場でただ一人の12勝0敗のプレイヤーの羨望の的になった瞬間だ。さすがに気分が良かったと微笑むジュザ。(ジュザはもしダモ・ダ・ロサの成績(12勝0敗)と交換できるならそうすると付け加えたが・・・)

 人生を変える年で発揮されたパフォーマンスについてジュザは語る。「この2年間は全く違うことをしていたんだ」 ジュザを有名にした世界グランプリ行脚も休んでいた。「これまでは絶対に参加していたヨーロッパのグランプリにすら行かなかったくらいだ」

 自身を「自動操縦」にしていたからだという。「毎年、シーズンが終わる前に必要なプロポイントが溢れてしまって、それはモチベーションの維持によくなかった」

 それは組み込まれてしまっているサイクルから変わることを欲しているように思えた。

「トップ8に入ることを計画することはできないが、よりよくプレイすることは予定に入れられるはずなんだ。他の人、例えばルーカス・ブロホン/Lukas Blohonがよりよくプレイすることに取り組んでいるのを見ると同じようにしたいと思うはずだ。ルーカスは自動操縦でゴールド・レベルになっていたが、よりよくプレイすることに専念した結果、プロツアーで優勝したんだ」

「それはうまくいった。なにせ僕は掛け値なしの怠け者だからね」 ジュザは頭を振る。

 今年、ジュザは背水の陣で専念し、ご存知の通り報われた。ドラフト・マスターのタイトルは、いつもプロツアーのドラフトで結果を残しているジュザにぴったりだろう。

「プロツアーの構築ラウンドで素晴らしい成績を残す人もいる。ブラッド・ネルソン/Brad Nelsonや八十岡翔太は大人気だ。彼らは構築ラウンドで7勝3敗を目指し、ドラフトではまぁまぁの成績を残そうとする。僕は彼らとは真逆だ。ドラフトラウンドは4勝2敗が最低限で、よりよい構築のデッキをいつも探している」

 今回、ジュザにははっきりとした戦略があった。「この環境はアグレッシブなのが好きだな。《川ヤツガシラ》と《オケチラの報復者》だったら《オケチラの報復者》を取るんだ。みんな《空からの導き手》と《送還》を過小評価しているね。僕は2、3、4マナとプレイしてから相手のクリーチャーをバウンスするんだ」

 ドラフト・マスターのタイトルと世界選手権の出場権利を獲得して喜ぶジュザではあったが、決して一人で成し遂げたわけではない。

「(友人でもある)チームメイトはこのプロツアーで本当によくやってくれた。サム・パーディー/Sam Pardeeはトラヴィス・ウーに、コーリー・バークハートはマキス・マツォカスにそれぞれ勝ってくれた。ChannelFireballのテスト・チームには本当に世話になっている。特にリミテッドではサム・ブラック/Sam Blackとジャスティン・コーエン/Justin Cohenだ。どんなアーキタイプをドラフトすればいいかを説明してくれるからね」

 ここまではマーティン・ジュザにとってファンタスティックな週末で、彼はまだトップ8の目を残している! 残りの5回戦で、人生で最高の週末のひとつがマジック史に残る週末にもなりうるのだ。グッドラック、マーティン。最後に、おめでとう。

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RESULTS

対戦結果 順位
最終
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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