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【観戦記事】 全勝をかけた戦いと、初日突破をかけた戦い

【観戦記事】 全勝をかけた戦いと、初日突破をかけた戦い

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Marc Calderaro / Tr. Tetsuya Yabuki

2014年10月10日

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 最終ラウンド中に9試合か10試合ほど取材して、他のみんなが会場を後にしてから記事を書き始めるというのは実に骨の折れる仕事だ。それでも、プロ・プレイヤーや他の実力者たちがプロツアーの初日最終戦に生き残りをかけて戦う様子を追えば、何か驚くべきことが見えることだろう。こういう場面こそが、マジックというゲームの難しさを思い出させてくれるのだ。私たちは、無敗で勝利を積み重ねているプレイヤーを取材することが多い(心配しないでくれ、もちろん彼らにも触れるつもりだ)。だが、これまでは勝利を積み重ねてきたのに、今や壁際に追い詰められているプレイヤーのことは?――比喩表現ではあるが、この場合は文字通りだ。プラチナ・レベル・プロにして殿堂顕彰の候補者、マーティン・ジュザ/Martin Juzaは、会場にそびえ立つ「構築の壁」に当たり、今大会敗退のラインに沿ってかかっているカーテンにその肘をつけることになったのだ。

 最終ラウンドを3勝4敗で迎え、明日またこの会場に戻るためには勝たなければならないプレイヤーを何人か挙げよう。マット・スパーリング/Matt Sperling、パット・コックス/Pat Cox、エリック・フローリッヒ/Eric Froelich(世界ランキング9位)、フランク・カーステン/Frank Karsten、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa、ジョン・スターン/Jon Stern、ジョシュ・アター=レイトン/Josh Utter-Leyton、ジェイコブ・ウィルソン/Jacob Wilson、八十岡 翔太、そして、先ほど述べた通り、壁を背にしたマーティン・ジュザもいる。

 素早く戦線を離れたプレイヤーもいたため、どんなプレイが彼らのゆくえを決めたのかわからなかった試合もあった。ジェイコブ・ウィルソンはメキシコのマルセリーノ・フリーマン/Marcelino Freemanとの試合での勝利を噛みしめると、バッグをつかみ急いで会場を後にした。その一方で、八十岡 翔太と彼の操る「シディシの鞭」デッキはギル・メディロス/Gil Medeirosとの試合で敗北を喫し、彼は観客の目を避けて会場を去っていった。それでも急いで帰らなかったプレイヤーたちもいて、彼らに試合がどうなったのか、そして今の気持ちを聞くことができた。

「なんでもないところを目指して長い道を登ることになったよ」イタリアのジュゼッペ・リール/Giuseppe Realeとの接戦を制したエリック・フローリッヒは、ため息を吐きながらそう語った。《ジェスカイの隆盛》コンボを用いた彼は、「ジェスカイ・アグロ」とのマッチアップとなったその試合に苦戦したのだ。「相手は《道の探求者》から《ゴブリンの熟練扇動者》、そして火力呪文に繋いできた。準備が整う前にコンボを始めなきゃならなくなったんだ」フローリッヒは《群の祭壇》で対戦相手のデッキを空にしたが、しかしリールがライブラリー切れによって敗北する前のアップキープに、アンタップした土地とクリーチャーを駆使して残りライフ2点のフローリッヒを焼き尽くし、勝利を掴む可能性もあった。

「どうやってもこっちの負けだと思ったよ。相手の墓地を数えて、15枚の火力呪文を確認したんだ。16枚目の火力が《ジェスカイの魔除け》じゃない限り負けるのに、それは4枚とも墓地にあった」彼は勝利の瞬間まで、諦めていたという。「たぶん、火力が全部で15枚だったんじゃないかな」まさにそれしかない、という幸運だ。こうしてフローリッヒは1勝4敗から戦いを続け、明日の席を獲得したのだった。

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パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサと津村 健志、殿堂顕彰者のふたり。

 フローリッヒは、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ(ニックネーム・PV)とジョシュ・アター=レイトン(同・ラプター/Wrapter)とともに、勝者側にその身を置くことができた。ダモ・ダ・ロサとアター=レイトンのふたりもまた、最終戦で勝利を収めたのだ。津村 健志は誰にとっても厄介な対戦相手であり、それは殿堂顕彰者であるPVにとっても同じことだ。それでも彼は、《ジェスカイの隆盛》で苦境を覆した。津村が用いたバージョンの「シディシの鞭」デッキは、「ちょっと相互作用が十分じゃなかった」とダモ・ダ・ロサは語る。「2ゲーム目、僕は《森の女人像》からゲームを始められず、そのまま彼にやられた。それでも、なんとか彼を捕えることができたよ」そしてジョシュ・アター=レイトンも、今大会を通してますます強さが知れ渡ることになった「ジェスカイ・アグロ」デッキを駆使し、イタリア人プレイヤーのダニエル・インガリネラ/Daniel Ingallineraを下した。フローリッヒ、ラプター、そしてPVの3人は、みな笑顔を浮かべてハワイの夕日に向かい歩いて行くのだった。

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ダン・マッサー/Dan Musserとマット・スパーリング

 私がマット・スパーリングの試合をチェックしに行った頃には、対戦相手のダン・マッサーがカードを片付け「火力......そんなに入っていたのか」とつぶやいているところだった。スパーリングに話を聞くと、もし彼が逆の立場だったら間違いなく同じことを言っていたという。「実は(《ジェスカイの隆盛》デッキにとって)アブザンとはそこまで相性が良くないんだよね。だからクリーチャーの多くをサイド・アウトしたんだ――《道の探求者》と《ゴブリンの熟練扇動者》をね」そのプランは見事に噛み合い、彼の対戦相手は《悲哀まみれ》と《英雄の破滅》の2枚を手札で腐らせることになったのだった。

 だが、ここで輝いたのはジェスカイ・デッキだけではない。カナダのジョン・スターンは《ジェスカイの隆盛》デッキと3ゲームにわたる激しい戦いを繰り広げ、彼のアブザン・デッキはプレッシャーをかけ続けることで勝利を掴んだ。「1ゲーム目は、相手が3ターン目にコンボを決めたんです」と、対戦相手のハヴィエル・ドミンゲス/Javier Dominguezについて語るスターン。ドミンゲスは第3ゲームにも3ターン目に《ジェスカイの隆盛》を戦場に繰り出したが、しかしそれと組み合わせるクリーチャーが確保できず、スターンは恐るべきエンチャントを持つ相手を打ち倒したのだった。スパーリングとスターンの両プレイヤーは、明日のために目覚ましをセットする必要があるだろう。

 マーティン・ジュザとマテイ・ザトルカイ/Matej Zatlkaj(ニックネーム・ビッグZ)も明日に備えることができたが、まさに辛うじてといった様子だった。最終ゲーム、ザトルカイの対戦相手であるジェレミー・ガニエ/Jeremy Gagneは空になった盤面に《リリアナ・ヴェス》を有していて、一方のビッグZには手札もない。ゲームを終わらせたいガニエは《リリアナ・ヴェス》の[-2]能力を使い、《太陽の勇者、エルズペス》を探した。しかしビッグZは《風番いのロック》をトップ・デッキし、すぐさま攻勢に出たのだった。「相手が《対立の終結》を探してから《太陽の勇者、エルズペス》を持ってきていたら、こっちの負けだったね」とザトルカイ。そして、ジュザは2体の《女王スズメバチ》と(言うまでもなく無数のハチにも)対峙していたときのことを、「ここで脱落かと考えた。できることはもうないと思っていたよ」と振り返る。しかし死が間近に迫ったそのとき、彼に残された最後のターンにカードをドローすると、メイン・デッキの《砂塵破》が彼を見つめていた。「『オー、イェイ』って感じだったよ」。この日一番の控えめな表現と言えるだろう。こうしてジュザは戦場を流し、ついにザッカリー・プラド/Zachary Pradoを破ったのだった。ジュザとザトルカイのふたりも、また明日この会場に戻ってくる。

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殿堂顕彰者フランク・カーステンと、リュウ・リー=チャン/Lyu Li-Ciang

 残念なことに、同じチーム「Cabin Crew」のメンバーであり同じく初日突破をかけて戦っていたあるプレイヤーには、「また明日この会場に戻ってくる」と同じことは言えない。殿堂顕彰者フランク・カーステンは会場でも最後まで続いた試合のひとつに身を置き、それは厳しい戦いとなった。対戦相手のリュウ・リー=チャンはボード・アドバンテージでカーステンを圧倒し、《エレボスの鞭》を起動し続けた。《包囲サイ》が何度も戦場に現れ、それだけでもリー=チャンは優位を保った。カーステンは幾度となく《砂塵破》を引き込みそれを放ったが、《エレボスの鞭》と《太陽の勇者、エルズペス》を打ち破るには至らなかった。フランク・カーステンは、チームメイトの応援に回ることになる。

 バブル・マッチの結果、マーティン・ジュザ、マテイ・ザトルカイ、ジョン・スターン、マット・スパーリング、ジョシュ・アター=レイトン、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ、エリック・フローリッヒ、そしてジェイコブ・ウィルソンが2日目へ。フランク・カーステンと八十岡 翔太はここで敗退となった。

 私はこれらのバブル・マッチにすっかり夢中になってしまった。フィーチャー・マッチ・エリアで行われていた2試合を忘れてしまうほどだった。そこでは長きにわたり「King of the Hill」の座を守り続けていたトニ・ポルトラン/Toni Portolanが、渡辺 雄也と対峙していた。私はフィーチャー・マッチ・エリアへ走り、勝利に踊る渡辺を捕まえた。彼は私に見事にサムズアップして見せた。それからポルトランにも追いつき話を聞くと、彼の「緑単信心」デッキは少しつまずき、一方の渡辺はすべてのゲームで3ターン目に《カマキリの乗り手》を繰り出したようだ。何度も何度も。実に素晴らしい。

 そして、こちらも無敗のマイク・シグレスト/Mike Sigristは、6勝1敗のアレックス・シットナー/Alex Sittnerを2ゲームで下した。シグレストのアブザン・アグロは、面白い障害をいくつも越えていった。第1ゲーム、シグレストは《責め苦の伝令》を《真面目な訪問者、ソリン》――の生み出したトークンに「授与」した。最終的にそれは除去されるのだが、ゲームに勝てるだけの飛行を持つ脅威となったのだった。最終ゲーム、1ターン目《思考囲い》でシットナーの手札が公開されると、そこには3枚の、そう、3枚の《対立の終結》があった。しかしそれを知ったシグレストは《ラクシャーサの死与え》や《包囲サイ》などの強力なクリーチャーを1体ずつ出すことで、アグロ・デッキ相手に3枚もの全体除去を抱えていた対戦相手を打ち倒したのだった。

 初日を終えて、全勝は渡辺 雄也とマイク・シグレストの2名。これは渡辺ほどのプロツアー常連のプレイヤーにとっても、驚くべき偉業だ。

 プロツアーにおいても、上位争いのすぐ下で行われているバブル・マッチ。その凄まじさの一端でも捉えることができたなら幸いだ。明日はもっと激しいゲームが見られる。もう待ちきれないよ。おやすみ、みんな!

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