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【戦略記事】 スタンダードにおけるメタゲームの予想とその結果

【戦略記事】 スタンダードにおけるメタゲームの予想とその結果

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Marc Calderaro / Tr. Tetsuya Yabuki

2014年10月12日

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 『ラヴニカへの回帰』が去り、『タルキール覇王譚』を迎えたローテーションがスタンダード環境を根本から揺るがしたことは、もはや公然のものとなった。私たちは、ローテーション後に登場した3つのアーキタイプ(「ジェスカイ・ウィンズ」、「アブザン・ミッドレンジ」、「マルドゥ・ミッドレンジ」)が全体で最も使われたものであることをこの目で見てきた。それから、2日目には「《ジェスカイの隆盛》コンボ」が最も活躍した3つのデッキに入るのを確認したのだ。

 既存のアーキタイプまで目を向けてみると、「緑黒信心」も「緑単信心」も、そして「赤緑モンスターズ」も注目すべき活躍を見せなかった。「緑黒信心」はスタンダード・ラウンドを7勝3敗で終えたプレイヤーを3人輩出したものの、「赤緑モンスターズ」はわずかにひとり、「緑単信心」にいたってはゼロ――完敗、0点という有り様だった。

 プロ・プレイヤーたちはこのフォーマットがどのように展開すると考えているのだろうか? チーム「ChannelFireball The Pantheon」は、彼らの使用した「『書かれざるものの視認』デッキ」を成績上位に乗せることができなかった(とはいえ、三原槙仁の使用したバージョンは良い成績を残した)。彼らは「ジェスカイ・ウィンズ」こそが正解だったことを知ったのだ。しかし、彼らが調整したデッキはなぜこれを打ち破れなかったのだろうか?

 この環境では、メタゲームの予測が移り変わるような原因になる思いがけないことも起きた。それを否定するプレイヤーもいるのだが(世界ランキング17位のパトリック・チャピン/Patrick Chapinが言うには、彼にとって今大会で思いがけないことは2番目に使われるデッキだと思っていた「ジェスカイ・ウィンズ」が1番だったことだけ、だそうだ)、会場全体を見てみると、ここで何かが起きたことは否定できないだろう。私はそれが以下の3つのできごとに収束すると考える。

1.《クルフィックスの狩猟者》の消失

 まず、緑のデッキの姿が見えなかった。ジェイミー・パーク/Jamie Parkeは大会以前から「《クルフィックスの狩猟者》はそこまで多くないはず」と述べていた。この環境の経験値が足りていないと、この発言は奇妙に感じられるかもしれない。トップ8入賞者のデッキリストを見ると、《クルフィックスの狩猟者》は合計8枚採用されているのだ。しかしこのスタンダードに慣れ親しんだ者にとっては、トップ8に8枚という数字は驚くべきものであり、興味深い。きっと多くの人が、トップ8における《クルフィックスの狩猟者》採用枚数の賭けに負けたことだろう。

 この予想外の消失は、緑の戦略を餌食にするようなコントロール・デッキを使うプレイヤーの人数を変えた。何体もの《世界を喰らう者、ポルクラノス》が打ち消されると予想されていたところに、全体除去とプレインズウォーカーが押し寄せてきた。ラファエル・レヴィ/Raphael Levyとチーム「Revolution」が使用したような「マルドゥ・プレインズウォーカーズ」や、青をベースにしたさらにコントロール寄りのデッキまで出てきたのだ。グレゴリー・オランジェ/Gregory Orangeは「エスパー・コントロール」でスタンダード・ラウンドを好成績で終えた。世界ランキング2位オーウェン・ツァーテンヴァルド/Owen Turtenwald、アンドリュー・クネオ/Andrew Cuneo、世界ランキング5位イヴァン・フロック/Ivan Floch、そしてエイドリアン・サリヴァン/Adrian Sullivanは、誰もが不可能だと考えていた「青黒コントロール」で結果を出した。

 想定されていたデッキが意外にも舞台から退場したことで、たくさんの試みが駆逐される結果になった。そしてこのことが、ふたつ目の予想外のできごと引き起こす。

2.実は「青黒コントロール」は使用に耐えるデッキである

 数を減らしたとはいえ緑を使うプレイヤーはいたため、コントロールが勢力を増した。そしてそれこそが、コントロールが一番当たりたい獲物を死滅させる後押しになったのだと、私は確信している。しかし主なプレイテスト・グループすべてに話を聞いてみたところ、テスト中に青黒の組み合わせがうまく機能した者はほとんどいなかった。

「まったく良い組み合わせだと思わなかったよ」と私に語ってくれたのは、ブラッド・ネルソン/Brad Nelsonだ。そこには、《太陽の勇者、エルズペス》が前環境の柱となっていたため、それをフィニッシャーに据えないコントロールが生き残れる道はない、という思い込みがあったからだと、私は考える。しかし実際は、《真珠湖の古きもの》でも十分にフィニッシャーが務まった。ライフを回復したり「占術」を与えてくれたりする土地を戻す、という動きが実は有用なものであると明らかになったのだ。さらに、《予知するスフィンクス》がビートダウンを徹底的に防ぎ、輝きを見せていた。

 「青黒コントロール」の登場は、それを無いものと決め込んでいた多くのデッキにとって巨大な脅威となった。ネルソンは、彼の用いた「赤白『変則的』トークンズ」デッキにとって唯一相性の悪いデッキが、「青黒コントロール」であることを確信した。それは1ゲーム目をアグレッシブに攻め、2ゲーム目や3ゲーム目はボード・コントロールに変えることができるデッキなのだが、青黒はその両方とも対抗できるのだ。「青黒コントロール」はいたるところで衝撃を巻き起こした。打ち消し呪文を恐れる必要はないと考えたデッキたちは、厳しく咎められることになったのだった。

 とはいえ、このデッキを操りトップ8入賞を果たしたプレイヤーでさえも、実はこのデッキが良いものだと考えていなかった。「いや、本当にダメダメだよ」2回連続となるプロツアー・トップ8入賞に導いた自身のデッキを指して、フロックはそう言ったのだ。このデッキを使用して最も活躍したプレイヤーが世界でも指折りの者であったことは、恐らく偶然ではないのだろう。君たちがフライデー・ナイト・マジックでこのデッキを使用しても、うまく機能しないかもしれない。

3.《ジェスカイの隆盛》の過小評価

 そして最後の予想外の出来事は、「《ジェスカイの隆盛》コンボ」の粘り強さだ。これは誰もが予想できなかったことではないが、間違いなく驚いた人はいるはずだ。大会中、多くのプレイヤーがこのデッキには粘り強さが足りない、と私に語ってくれた。その結果、彼らはこのデッキを使用しなかっただけでなく、他にも使う人はいないだろうと判断したのだ。しかし、「これを使ってはならない」という指令を受けなかったプレイヤーもいて、その中には殿堂顕彰者、ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasや世界ランキング16位のリー・シー・ティエン/Lee Shi Tianも含まれていた。

「このデッキの強さについては確信が持てなかった。もうひとつのジェスカイ・デッキは強いと思っていたけどね」と、スコット=ヴァーガスは語る。しかし彼らは、「《ジェスカイの隆盛》コンボ」には「ジェスカイ・ウィンズ」にない強みがきっとあると考えていた。そのため、コンボの方を選ぶ者がいたのだ。チーム「ChannelFireball」内では唯一エリック・フローリッヒ/Eric Froehlichがスタンダード・ラウンド7勝3敗の成績を収めたくらいだが、もうひとり、このコンボを用いて記憶に残る試合を見せ、劇的なトップ8入賞を決めたプレイヤーがいた――香港のリー・シー・ティエンだ。

 「青黒コントロール」と同様に、「《ジェスカイの隆盛》コンボ」がこの環境のベスト・デッキとは言い難い――優れたデッキですらないかもしれない。それでも、対策を怠れば思わぬところからやられることになるだろう。

 そう、世界ランキング8位のショーン・マクラーレン/Shaun McLarenが見せてくれたように、「《ジェスカイの隆盛》コンボ」を恐れるからこそ、そのデッキを打ち破ることができるのだ。マクラーレンはより信頼性の高い「ジェスカイ・ウィンズ」の方を用いたものの、彼はコンボの持つ力をきちんと認め、「《ジェスカイの隆盛》コンボ」に対抗できるサイドボード・カードの枠をしっかりと取った。ショーンが準々決勝でリーを手際良く仕留めたことは、デッキに対する正当な評価は勝率に大きく貢献する、ということを教えてくれる。アリ・ラックス/Ari Laxもまた「《ジェスカイの隆盛》コンボ」に備えてサイドボードに《消去》を取っており、それは賢明だったと言えるだろう。もしかすると、それらふたつのデッキが決勝で相見えたことは必然だったのかもしれない。

 極めて広い目で最終順位を見れば、誰もが「知ってた」と言えるだろう。決勝で対峙したのは、最も広く知られ、人気を集めたデッキふたつ――「アブザン・ミッドレンジ」と「ジェスカイ・ウィンズ」――だった。それでも、そこまで至る道や特定のカード選択、延いてはデッキ選択まで、結果として残った最終順位だけでは測れない絶妙な差異がたくさんあるのだ。

 ローテーション後のプロツアーは、回を重ねるごとに洗練されていく。その舞台で何が現れるのか、そして実際は何が正解なのかについて、誰もが予想できることは少なくなっていくだろう。そして今後近いうちに、ローテーション後のプロツアーは年に2回行われることになるのだ。

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