マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト

イベントカバレージ

【戦略記事】 プロツアー『ゲートウォッチの誓い』ドラフト全勝者たち

【戦略記事】 プロツアー『ゲートウォッチの誓い』ドラフト全勝者たち

calderaro.jpg

Marc Calderaro / Tr. Tetsuya Yabuki

2016年2月6日

原文はこちら

「ああ、今回のドラフトはかなり簡単だよ」 今大会にてドラフト部門全勝を果たしたことについて尋ねると、プロツアー『タルキール龍紀伝』準優勝の八十岡 翔太はそう言った。もちろん冗談を交えた言葉なのだろうが、しかし他の全勝者たちに話を聞いても同じ言葉が返ってくるではないか。やや言い回しに違いはあるものの、殿堂顕彰者フランク・カーステン/Frank Karstenも親指を立ててこう言う。「今回鍵となるのは――難しく考え過ぎないことだ」

 つまり簡単だってことだろう?

 全勝したからこその余裕の発言なのだろうか。ニック・コンネル/Nick Connell、グランプリ・ピッツバーグ2015王者アレックス・ビアンキ/Alex Bianchi、フランク・ルポール/Frank Lepore、殿堂顕彰者の中村 修平、2014-2015年度プレイヤー・オブ・ザ・イヤーにして現在世界ランキング10位のマイク・シグリスト/Mike Sigrist、そしてマテイ・ザトルカイ/Matej Zatlkajに八十岡とカーステンを加えた面々は、2日間のドラフト・ラウンドを無傷で渡り切ったのだった。

 それにしても、彼らは一体どうやって「かなり簡単」に全勝という成績を収めたのだろう? 彼らを捕まえて話を聞くと、全員が今回のドラフトの進め方や環境の見方について様々な知識や技術を持っていた。

「とにかく速い」と八十岡は言葉を継ぐ。そのため、彼は速さが安定している2色を好んだ。「強い2色の組み合わせが多いよ。緑白、赤白、白黒。どれも強い」と言う八十岡は、2回のドラフト両方で赤白のデッキを組み上げた。

ptogw_draft_yasooka.jpg
今回のブースター・ドラフト全勝者で、白を絡めた攻撃的なデッキの力を認めたのは殿堂顕彰者八十岡 翔太だけではない。

 チーム「EUreka」の実力派プレイヤー、スロバキアのマテイ・ザトルカイ/Matej Zatlkajも、赤白の組み合わせを好んでいる。彼は常に赤白のデッキを組んでいた。「Big Z」ことザトルカイは他のチームメンバーとグランプリ・メキシコシティ2016へ参加できず、ドラフトの練習機会を得られなかった。「当日までに15回ほどしか練習できず、経験値が足りていなかった。そこでチームの仲間が『とにかく赤白をやれ。少なくとも白を意識しろ』って教えてくれたんだ」と語る彼は、そのアドバイスを守ったのだった。

 この意見は、八十岡とカーステンが語った言葉にも合致するところがある。今回のドラフトでは「速い」アグロ・デッキが有効であり、それが組めるなら組むべきということだ。2回とも赤白をドラフトした2名が両方とも全勝した、という事実はさほど驚くことではないのだ。この環境ではシナジーより個々の力が優先されるということに、ほとんどのプレイヤーが同意する。ドラフトの際はそこを意識するといいだろう。

 それから、ザトルカイは赤白について「複数のアーキタイプに手をつけないこと」が大切だと付け加えた。「例えば、青黒コントロールをやるなら除去や飛行クリーチャーから入るのがいい。でもその後に《空の探索者》みたいなカードをピックしてしまうと間違った方向へ進んでしまうんだ」ザトルカイいわく赤白でコントロールはできないため、その色をピックすると最終的に同じようなデッキに仕上がるのだという。なるほど? 簡単だ。

 この点について、マジック界の偉人のひとりであり今大会のドラフト部門全勝を果たした中村 修平も同意する。ただし、彼自身はその枠に収まっていないようだ。「コントロールはおすすめしません」と彼は言うのだが、今大会のドラフトで用いたアーキタイプを尋ねると「白黒コントロールと白青コントロールです」と答えた。思わず彼の顔を見た私に、中村は「だから他の人にはおすすめしませんって!」と口を尖らせるのだった。

ptogw_draft_nakamura.jpg
中村 修平。マジックというゲームに長けるだけでなく、自身の考えに囚われず結果を出す達人。

 自身の意見に反したドラフトを行ったのは、2回とも《変位エルドラージ》を手に入れることができ、この超強力なカードを可能な限り活かすのがベストだと考えたからだ、と中村は言う。もちろん彼は、そういったデッキを組むための戦略もしっかりと持ち合わせていた。それは積み重ねた練習によって身に付けたものだ。

 ただ自分が白のカードをピックしているだけでは、他のプレイヤーにその色を諦めさせることはできない、と中村は続ける。なぜなら「白をやりたがるプレイヤーが多すぎる」からだ。この状況で戦うことについて中村は、「コントロールをやる場合は、アグロ・デッキを絶対に倒せるような形を目指します。白には優れた攻撃的なカードが大量にあり、白絡みのアグレッシブなデッキが複数現れる可能性があるからです」と語った。

 ここまでの時点でも、みな「アグロ、アグロ、アグロ」と口を揃えて言っている――実際にコントロール寄りにドラフトした者もひとりだ。殿堂顕彰者にして数字の魔術師、フランク・カーステンもまた、「アグロ有利」に全面的に同意した。彼はいつものように、デッキの枚数レベルの細かい分析を披露してくれた。「2マナ域4枚に3マナ域5枚、4マナ域は4枚、それから5、6マナ域を少々。クリーチャーでない呪文は7枚で、クリーチャー16枚。これが理想の配分だね」このデッキ配分は、ザトルカイも同様のものを口にしている。彼はこの環境ではコンバット・トリックが多く取れるため、それらの有用性がぐっと上がっていると考えた。

「攻撃は好きだよ」とカーステンは続ける。「『戦乱のゼンディカー』のみのときとは大きく変わって、大型のエルドラージも打ち倒せるようになった。だから序盤のクリーチャーを多く取ることが重要なんだ」

ptogw_draft_karsten.jpg
数字を制するフランク・カーステン。彼はこの週末のブースタードラフトも制してみせた。

 どのプレイヤーも「2色」で「アグロに」ドラフトする戦略を説いているが、これは暗に「できれば無色マナの使用は避けたい」ということを示している。八十岡ははっきりと、無色マナ・コストを持つカードの使用を避けた。2色デッキの速度と安定性を薄めるだけの結果になるからだ。また、ザトルカイも同様の意見を持っていた。「無色マナ・コストのカードは3色目として扱うことになり、しかもその色の土地を得るために有効なピックを行う必要が出てくる」

 ザトルカイとしては、たとえ普通なら無色マナ・コストのカードを扱える色に進んだとしても、それを使用するのは避けたいという。「例えば青をドラフトしたとしても、僕らのチームは(青と何かの無色デッキではなく)積極的に青赤の『怒濤』戦略にまとめるよ。その方がずっと、マナ基盤が安定するんだ」

 フランク・カーステンも無色マナ・コストを持つカードの力は認めつつも、はっきりした言葉でアドバイスを送ってくれた。「《荒地》をデッキに入れないこと。それはマナ基盤を大きく圧迫する。この環境では、9枚か8枚ずつで2色のマナ基盤を作るという普段通りのやり方ですら最適解じゃないんだ」カーステンは、土地18枚もときにはあり得ると言う。土地が多く必要になるのではなく、色をきちんと揃えるために。

「もちろん、無色マナ・コストを持ったカードにも良いものはある。《終末を招くもの》や《姿を欺くもの》はゲームの決め手として優れているね」と、カーステンは語った。「だが無色マナ・コストのカードを採用する場合は、本当に必要かどうかをしっかり見極めるべきだ」さもなくば、カーステンが言ったように「難しく考え過ぎる」ことになるだろう。

 以上の意見はどれも有効なものと言えるだろう。しかしここにひとり、その流れを断ち切るプレイヤーがいた。普通ならそういうプレイヤーの話は聞き入れられないかもしれないが、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーがそう言うのだから、言葉の重みが違う。現在世界ランキング10位のマイク・シグリスト/Mike Sigristは、他のドラフト全勝者の無色マナ・コストを持つカードに対する評価へ首を振っただけでなく、自身が所属するチーム「Face-to-Face Games」のチーム内での評価にも異論を唱えた。

「無色マナ・コストのカードはウチのチームでも過小評価されていたよ」と、シグリスト。「アグロ・デッキも悪くないけれど、そいつはやろうとすれば簡単に倒せる。《古代ガニ》や《復興の壁》に優れた除去を加えてやれば、軽い方に寄せたデッキを倒せる強力なデッキになるんだ」

 シグリストに言わせれば、この環境は「カード・パワーがすべて」だそうだ。彼は実際に、その言葉通りのドラフト戦略を持っていた。

ptogw_draft_sigrist.jpg
世界ランキング10位のマイク・シグリストはチームメイトや他のドラフト全勝者たちの意見に反対し、独自の戦略を成功させた。その戦略で彼は、プロツアーのドラフト部門全勝を果たしたのだ。

「最初のふたつのピックは、他の何よりも強力な除去を優先する――《忘却の一撃》や《孤立領域》、それから《闇の掌握》とかね。そして、3ピック目から5ピック目くらいの間に目立つものがなければ、《抵抗者の居住地》や《未知の岸》を取る」

 この時点ですでに、シグリストの戦略は一線を画している。無色マナを生み出す土地にピックを費やすのみならず、それを早い段階で行っているのだ。「常に選択肢は広げておくこと。そうすれば、後半に強力な無色マナ・コストのカードが使えるようになる」シグリストは「盟友」や「支援」のような多くのプレイヤーが欲しがるメカニズムではなく、カード単体での強さを重視した。そしてカード・パワーなら、無色マナ・コストのカードが圧倒的だ。

「無色マナ・コストのカードは、本来取らなければならない順目よりずっと遅いタイミングで取れることが多いよ。特に2パック目にもなると、それらをサポートする土地をドラフトできていないプレイヤーから流れてくるからね」土地を早い段階で押さえることでマナ基盤をしっかり作っておき、シグリストはどのカードでも問題なく受けられるようにしたのだった。

「2回目のドラフトでは、《耕作ドローン》を13手目に取れた。そういうことが起こるんだ」と、シグリストは続ける。「『青単無色』デッキは間違いなく有効だよ。《目潰しドローン》は青のコモンとアンコモンを見渡しても最強だし、ドラフト後半でもピックできると思う」

 シグリストの戦略は、ドラフト全般において度々成功してきたもののひとつだ。バランスの取れたドラフト環境において同卓のプレイヤーの多くが最適でないと考える色や戦略があるのなら、それをドラフトする者が他にいないため独占でき、結果的に最高の戦略となるのだ。とはいえ、シグリストの提唱する「アンチ戦略」が本当にその理由で有効なものなのか、それともこのプレイヤー・オブ・ザ・イヤーがひと際優れていただけなのかについては、見極める必要があるだろう。

 いずれにせよ、今回ご紹介したそれぞれの戦略はどれも、それぞれのプレイヤーにとっての真理であることは疑いようがない。それは、プロツアーのドラフト部門全勝という形で表れている。彼らの姿は最終日の舞台に当てられるスポット・ライトの中にも見受けられるかもしれないが、そのとき彼らが装備しているのは75枚のモダン・デッキだ。日曜日の舞台ではドラフトのことは忘れられがちだが、彼らがそこに立っているのは40枚デッキでの戦いに対する見事な分析とプレイによるものであることを、どうか思い出してほしい。

前の記事: 【英語記事】 The Modern Masters in a Brave New World | 次の記事: 【観戦記事】 第12回戦:Frank Karsten(オランダ) vs. Owen Turtenwald(アメリカ)
プロツアー『ゲートウォッチの誓い』 一覧に戻る