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【観戦記事】 決勝:Ivan Floch(スロバキア) vs. Jiachen Tao(アメリカ)

【観戦記事】 決勝:Ivan Floch(スロバキア) vs. Jiachen Tao(アメリカ)

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Marc Calderaro / Tr. Tetsuya Yabuki

2016年2月7日

原文はこちら

イヴァン・フロック/Ivan Floch(無色エルドラージ) vs.ジャアチェン・タオ/Jiachen Tao(青赤エルドラージ)

 「JC」ことジャアチェン・タオは、生粋のドラフト好きだ。彼はこれまでずっとドラフトをやってきた。そんな彼がプロツアーの参加権利を得て、構築フォーマットを0から学ぶ必要に迫られた。恐らくこれこそ、彼がモダンを攻略できた理由なのだろう。彼は先入観に囚われず、可能性を信じて新鮮な目でこのフォーマットに取り組んだ。この週末のはじめ、「JC」に彼のデッキについて「君らしいね」と声をかけると、彼は「ああ、そうですね。ドラフトで強いカードでいっぱいだ」と返した。《不快な集合体》に《空中生成エルドラージ》、《希望を溺れさせるもの》を並べて見せながら。

 ドラフト好きは、変わらずドラフト好きで居続けた。

 タオの「青赤エルドラージ」は、使用者の半数をトップ8入賞へ導いた――チーム「East West Bowl」のアンドリュー・ブラウン/Andrew Brownと彼自身を。初日の構築ラウンドでは、2人合わせて19勝1敗という勢いで駆け上がった。タオに構築ラウンドで唯一土をつけた殿堂顕彰者の中村 修平も、準々決勝で乗り越えてきた。

 事実、JCはこのトップ8ラウンドにて、「Channel-Fireball」と「Face-to-Face Games」連合を次々と打ち破っている。彼は中村 修平を下したあと、準決勝では殿堂顕彰者ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasを打ち倒した。そして決勝を迎えた今、彼は3連続となる対戦に臨んでいる。

 ジャアチェン・タオがこの試合に勝てば、私たちの多くが教室の後ろで空想にふけっていたあの頃に見たマジックの夢を実現する。「最強のデッキが作れれば、プロツアーにも勝てるのに。どれだけ強い相手でも、どれだけ有名な相手でも倒せる。だって最強のデッキを持っているんだから」

 だがそのためには、プロツアー『マジック2015』王者にして2010年の世界選手権チーム優勝を果たした、スロバキアのイヴァン・フロックを倒さねばならない。

 タオと違い、フロックはこの舞台に何度も来ている。チーム「Face-to-Face Games」へ最近加入した彼は、ヨーロッパで振るっていたその腕前を北米のチームでも遺憾なく発揮した。チーム加入による恩恵は、こうして2度目のプロツアー決勝へ進んだことで、すでに受け取っていると言えるだろう。

 彼とチームが持ち込んだ無色のバージョンは「青赤エルドラージ」デッキに不利であることを念頭に、「厳しい戦いになるね」とフロックは言った。タオがフロックのデッキ選択について、テスト前半に決めたか後から加わったのかを尋ねると、「僕はいつも新しいアイデアを否定する立場にいるよ。今回もそう心がけたんだけど、どうやら大失敗だったみたいだね」と答えた。

 相性差は歴然としてある。青赤の方がやや速いだけでなく、《希望を溺れさせるもの》や《エルドラージの寸借者》はフロックのクリーチャーのほとんどに効果的なのだ。だがフロックの側にも、《幽霊街》がメインから4枚搭載されている。この使い勝手の良い強力な土地はタオの「2マナ土地」を破壊し、望み通りの展開を妨げることだろう。

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ジャアチェン・「JC」・タオは次々とマジック界の巨星を落としてきた。彼の前に立ちはだかるマジック・コミュニティの怪物は、あとひとり――イヴァン・フロックのみだ。

 中村 修平もタオのデッキに敗れ、そして今、フロックもその牙にかからんとしていた。予選ラウンド8位のタオは1ゲーム目を後手で迎える。果たして彼は、「無色エルドラージ」を前に再びサービスゲームをブレイクし、スーパー・チーム揃いのトップ8を完全制覇できるのだろうか?

ゲーム展開

 1ゲーム目第1ターンが始まる前に《宝石の洞窟》が繰り出されると、その時点でもう「ブレイクを取った」という声が挙がった。

「《宝石の洞窟》か」 フロックは笑顔を見せた。「すごいな」

 そしてタオが《宝石の洞窟》の効果で《ウギンの目》を追放すると、「もう1枚あるんだね?」とフロックは尋ねる。

 一方のフロックはマリガンを強いられ、《現実を砕くもの》3枚を含む手札をキープしていた。フロックは《幽霊街》もキープできたため、タオがセットした《ウギンの目》をエルドラージが繰り出される前に破壊することができた。結果的に、この《幽霊街》は1ゲーム目の決定打となった。フロックは続けて《エルドラージのミミック》を繰り出すと、マナさえ揃えば勝利への道が開ける状態になる。

 だが《幽霊街》を使用したことによる遅れと土地が止まったことで、フロックはタオに《現実を砕くもの》を先に展開することを許してしまう。しかも返しのターンでフロックが《難題の予見者》を繰り出すと、タオは手札に2枚目の《現実を砕くもの》と《希望を溺れさせるもの》を抱えており、思わず目を見開くことになった。それでも《希望を溺れさせるもの》を取り去ったフロックは土地さえ引ければ、《現実を砕くもの》による戦争を平定することができる。いや、引かねばならない。

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決勝の舞台を照らすライトの下でも穏やかに、冷静にプレイを進めるフロック。この舞台には慣れている。プレッシャーをかけられた程度では動じない。

 果たして次のドロー・ステップで、フロックは土地を引き込んだ。タオは盤面へ追加した《現実を砕くもの》をブロック用に残すという賢明な判断を下していたが、フロックは手札にまださらなる《現実を砕くもの》を残しており、また《エルドラージのミミック》も5/5になり続けることで、この戦争はフロックが収め、《現実を砕くもの》による盤面の優位も得た。タオは《エルドラージのミミック》による攻撃でライフを減らしているため、自身の《現実を砕くもの》を再びブロックに回した。しかし《現実を砕くもの》による侵攻は止まらず、タオは投了を余儀なくされたのだった。

 こうして、第1ゲームはイヴァン・フロックが制した。

 2ゲーム目、フロックは《エルドラージの寺院》2枚でゲームを始めた。彼がそれを2枚ともタップすると、タオは2ターン目《難題の予見者》という恐怖を予見して手札を広げようとするが、フロックの手札から繰り出されたのは《作り変えるもの》だった。

「これじゃないんだよなあ」とフロックは笑った。

「僕を怖がらせるのには成功しましたよ」と、タオは安堵の溜息をつく。

 一度は恐怖に包まれたものの、その後はタオの独擅場だった。それは一瞬の出来事だった。フロックは手札に土地を抱えており、盤面への展開を続けられなかった。

 タオは《不快な集合体》2枚に《空中生成エルドラージ》、《難題の予見者》(フロックの《現実を砕くもの》を追放)と展開を進め、フロックが盤面を抑えようと《忘却蒔き》を繰り出すと、それを《エルドラージの寸借者》で奪って一挙21点。瞬きでもすれば見逃すような一撃に、フロックは思わず何が起きたのかを理解するのに動きを止めた――そしてカードを片付けたのだった。

 2ターン目に恐怖を感じたことが良かったのかもしれない。その後のタオは何も恐れることなくゲームを進めていた。

 3ゲーム目は両者マリガンから、2マナ土地が置かれてゲームが始まった。このゲーム、フロックは初手を5枚まで減らしていたが、その手札には《現実を砕くもの》が2枚あり、タオの手札よりマナ・フラッドに強くなっている。タオは1ターン目《エルドラージのミミック》、2ターン目《空中生成エルドラージ》と良好なスタートを切った。彼のマナ基盤は《ウギンの目》と《島》1枚によって支えられていたが、手札には《ウギンの目》がもう1枚あった。タオはフロックの《幽霊街》が《ウギンの目》を破壊してくれることを願って、盤面をじっと見つめた。

 彼の目論見通りにはならなかったものの、タオは《空中生成エルドラージ》が生み出した末裔・トークンを用いて《難題の予見者》を繰り出すことに成功した。彼はなんとかダメージを稼ぎ出し、勝利へ向かって進み始めた。だがタオも警戒している通り、フロックがいつ「一発トップ・デッキ」しタオを驚愕させるかはわからない。

 タオはついに《エルドラージの寺院》を引き込み、最大馬力でプレッシャーをかけ出した。マナに悩まされることがなくなった今、彼はさらに盤面の有利を築いていく。

 タオがドロー・ステップを迎えると、フロックは《幽霊街》を指で固定してその場で回し始めた。生け贄に捧げるかと思われたそのとき、彼は「いや待てよ、2枚目の《ウギンの目》があるかもしれない」とつぶやいた。決断を下す前に、フロックはもう一度考える時間を取る。タオはフロックが《幽霊街》を起動するのをずっと待っていた。だがここでも、フロックはその通りに動かなかった。

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タオのデッキ選択は正しく、彼は優位な立場にある。あと必要なことは、カードを的確にプレイしトロフィーを掲げることだけだ。

 しかし結果的に、《幽霊街》の起動は問題にならなかった。《現実を砕くもの》も失ったフロックは大差で不利な状況にあり、小型エルドラージの猛攻を食い止める何かをトップ・デッキする必要があった。しかし彼の元には唱えられないカードばかりが集まり、タオの小型エルドラージの行進が勝利を運んで行ったのだった。

「結局《幽霊街》はどうすれば良かったのかな」と、フロックは振り返る。「さっきのゲーム、序盤はマナが必要だった。でも後半にもう1枚《ウギンの目》を持たれていたら、こっちがただマナを失うだけだ。《忘却蒔き》とかを引きこまなきゃいけなかったんだろうね」

 タオはそれに頷いたが、ゲームを通して2枚目の《ウギンの目》を抱えていたことまでは言わなかった。「徹底的に意見を交わしたいくらいだね」とフロック。タオは目の前にいるのだが、4ゲーム目へのシャッフルをする彼はどこか上の空だった。優勝まであと1ゲーム。

 あと、1ゲーム。

 続く第4ゲーム、これが最後のひとつになるかもしれない。北カリフォルニアのジャアチェン・タオは今まさに、誰もが夢見た物語の中にいる。誰もが予想だにしなかったデッキ――自作のオリジナル・デッキを手にプロツアーへ乗り込んだ。有名プレイヤーを次々と撃破して頂点への道を突き進み、会場中の話題になった。トップ8ラウンドでは、「ビッグ・チーム」という名のドラゴンを討伐するための非情な冒険を経て、殿堂顕彰者たちを、プロツアー王者たちを破った。

 事前の研究も準備も、そして経験もないことが、この場でプラスに働いた。今日はまさに「彼の日」だ。この週末を迎えるまで、ジャアチェン・タオの名を知る者はいなかった。そして今、「JC」の名は世界中に知られようとしている――デッキの作成者として、プロツアー王者として。

 4ゲーム目、JCは《宝石の洞窟》からリミテッドの主力カード《空中生成エルドラージ》と《不快な集合体》を繰り出し、ジョニー垂涎の《エルドラージのミミック》を展開した。ドラフト好きは、変わらずドラフト好きで居続けた。3ターン目、タオの攻撃を受けて、プロツアー王者イヴァン・フロックのライフは残りひと桁となった。それでも彼は、チャンプ・ブロックでもう1ターン生き延びる。

 JCを止められるものはもうない。何も。

 それでも彼は細心の注意を払った。このゲームに負ける可能性をすべて考えた。そしてフロックの手札から最後の障害を取り去ると、本当に何もないことを理解した。

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タオはドラフトの戦力を集めた新兵たちとともに、ついにラスボスを打ち倒した。

 チーム「East West Bowl」の面々が大騒ぎで舞台へ上がってくると、"巨人殺し"JCはようやく満面の笑顔を浮かべた。今日が「自分の日」であることをタオは知っていた。そして彼は、このチャンスを見事に活かしたのだった。

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 プロツアー『ゲートウォッチの誓い』王者は、イヴァン・フロックを3勝1敗で下したジャアチェン・タオ!

Jiachen Tao - 「青赤エルドラージ」
プロツアー『ゲートウォッチの誓い』 優勝 / モダン
4 《エルドラージの寺院》
4 《ウギンの目》
4 《沸騰する小湖》
4 《シヴの浅瀬》
3 《魂の洞窟》
2 《島》
2 《蒸気孔》
1 《宝石の洞窟》

-土地(24)-

4 《果てしなきもの》
4 《エルドラージのミミック》
4 《空中生成エルドラージ》
4 《不快な集合体》
3 《エルドラージの寸借者》
2 《破滅を導くもの》
4 《難題の予見者》
4 《現実を砕くもの》
4 《希望を溺れさせるもの》

-クリーチャー(33)-
3 《四肢切断》

-呪文(3)-
1 《精霊龍の墓》
3 《頑固な否認》
2 《はらわた撃ち》
2 《大祖始の遺産》
3 《ハーキルの召還術》
2 《虚空の杯》
1 《漸増爆弾》
1 《呪文滑り》

-サイドボード(15)-
Ivan Floch - 「無色エルドラージ」
プロツアー『ゲートウォッチの誓い』 準優勝 / モダン
4 《ちらつき蛾の生息地》
4 《エルドラージの寺院》
4 《ウギンの目》
4 《幽霊街》
3 《変わり谷》
3 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》
2 《荒地》

-土地(24)-

4 《果てしなきもの》
4 《エルドラージのミミック》
2 《呪文滑り》
4 《作り変えるもの》
4 《猿人の指導霊》
4 《難題の予見者》
4 《現実を砕くもの》

-クリーチャー(26)-
4 《虚空の杯》
2 《漸増爆弾》
4 《四肢切断》

-呪文(10)-
4 《大祖始の遺産》
3 《はらわた撃ち》
2 《真髄の針》
1 《漸増爆弾》
1 《呪文滑り》
1 《歪める嘆き》
3 《忘却蒔き》

-サイドボード(15)-

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