EVENT COVERAGE

プロツアー・パリ11

読み物

年間最優秀プレイヤー決定戦:
Guillaume Matignon(フランス) vs. Brad Nelson(アメリカ)

/

"フルネルソン・スープレックス"

By Josh Bennet / translated by "FOREST" Keita Mori



ブラッド・ネルソン 「試合が始まる前にひとつ確認させてほしいんだ。・・・これってDCI認定試合になるのかな?」

 まさしく世紀の一戦、マジック史上はじめて行われる年間最優秀プレイヤー(以下POY、Player of the Yearの意)決定戦の口火を切ったのは、アメリカンジョークそのものとも言えるトラッシュトークだった。これも壮麗なる舞台に相応しい一幕だったのかもしれない。

 ステージ中央には試合用のテーブルが置かれ、決戦に臨む二人の選手の母国のナショナルフラッグがたなびく。そして奥手の最前列には歴史的一戦を見守る彼らの家族のための特別席が用意されている。ギヨーム応援席にはマティニョンの従兄弟と妹、それに母親の姿がある。彼らのボルドーからパリまでの旅路は、対するブラッド・ネルソン応援団に比べればかなり短いものだっただろう。ブラッドを応援する席には、彼の父親と現在の恋人、そして腹違いの弟の姿がある。この異母弟こそ、プロツアー参戦中のプレイヤーでもあるコーリー・バウマイスター(Corey Baumeister)にほかならない。

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 観客席の騒音からは隔絶され、特別試合専用の決戦エリアには静寂と緊張が漂っている。しかし、"Come on, Brad!"、"Allez Guillaume!"といった両陣営の応援席からの叫び声がときおり木霊し、ざわめきを作る。撮影クルーやコメンテーターをはじめ、すべてのスタッフが世紀の一戦のライブ中継のために万全の準備を整え、息をひそめて待機している。そんな中、おなじみの笑みを浮かべるギヨーム・マティニョンは完全にリラックスしきっているように思われた。対照的に、どことなくせわしないのがブラッド・ネルソンだった。

Game 1 (スタンダード)

 コイントスの儀式に勝利したマティニョンが先行を選び、歴史的な試合が幕を開けた。ネルソンにとっては縁起が悪い幕開けで、マリガン後に確認した6枚の手札に関しても、しぶしぶキープせざるをえなかったように思われた。ここで場内にグランプリ・パリのシールドデッキ構築開始をつげる大音量のアナウンスが鳴り響き、観客席をとりまく群衆のサイズは明らかに小さなものとなった。いまや、グランプリ参加という誘惑にも屈しなかった、「ホンモノ」たちだけが客席に残っているのだ。

 多くのプレイヤーがグランプリ試合エリアに向かう中、それまでお気楽な風であったマティニョンの態度が、ネルソンばりに冷静で手堅い決断をくだす男に豹変した。マティニョンは《太陽の宝球》プレイがファーストアクションで、対するネルソンはマリガンによる手札格差を《戦隊の鷹》によって埋めにかかった。ここからの展開が一枚上手だったのはマティニョンの方で、マナブーストからの《ボーラスの工作員、テゼレット》高速展開に成功し、+1能力を起動して《予言のプリズム》を獲得し、ターンを返してみせた。


2004年にガブリエル・ナシフ(Gabriel Nassif)が手にして以来となるPOYのタイトルを、
ギヨーム・マティニョンは何としてもフランスに取り戻したいのだ。

 ネルソンにはこれといった打開策が見当たらない。ここで新型テゼレットに空から1点のアタックを叩きこみ、戦闘後に二羽目となる《戦隊の鷹》を呼び出してから、《天界の列柱》を置いてターンエンド。対するマティニョンは準備万端の《紅蓮地獄》を見舞って盤面を一掃し、《ボーラスの工作員、テゼレット》の-1能力を起動して《太陽の宝球》を5/5クリーチャーに変身させてアタック宣言。

 4ターン目を迎えたネルソンは、4枚目の土地を置いてから残された二羽の《戦隊の鷹》を解き放つことしかできず、そこにマティニョンが二発目の《紅蓮地獄》で応じるという完璧なリアクション。ネルソンは即座にカードを片付けはじめ、投了の意を明らかにした。

 マティニョン-1, ネルソン-0

 後方の応援席に控える家族へむけて、マティニョンは親指を上にあげて「やったぜ!」とサインを送る。マティニョン応援団もあまりの決着の早さに驚きを隠せないようだったが、ギヨームのサインに笑顔で応じていた。一方のネルソンの応援席にはアメリカ勢の"EFro"エリック・フローリッヒ(Eric Froehlich)とポール・ライツェル(Paul Rietzl)が加わっており、熱心に声援を送ってその存在を印象付けていた。

Game 2 (スタンダード)

 第2ゲームはマティニョンの《定業》を先手ネルソンが《呪文貫き》で打ち消すという攻防から開幕。ネルソンはここに《漸増爆弾》を設置する。マティニョンの《太陽の宝球》は打ち消されることなく着地し、ネルソンは《湿地の干潟》をプレイするだけでターンを返した。マティニョンが二発目の《定業》を試みるが、ネルソンはこれを《マナ漏出》して許さない。マティニョンは3枚目の土地が置けず、マナを伸ばすためにX=1の《永遠溢れの杯》をプレイ。ネルソンも土地が3枚目から伸びず、マナにつまってしまう。ここでフェッチランド《湿地の干潟》を起動して《平地》を確保し、《》を1枚アンタップで残したまま《戦隊の鷹》を召喚した。

 マティニョンは「まあ、やってみないことにはな・・・」とつぶやいてから、青マナを残した対戦相手めがけてタップアウトでの《ボーラスの工作員、テゼレット》を試みる。ネルソンはこのゲーム2枚目となる《呪文貫き》をテーブルに叩きつけ、これに応じた。

 アンタップを迎えたネルソンは、ここで思考を整理しにかかる。まずはマティニョンの手札の枚数が4枚であることを確認。盤上をじっくりと眺め、ありとあらゆる角度から状況を分析しはじめた。マティニョンは土地が2枚で詰まっており、アーティファクトのマナソースが2つ。およそ1分ばかり検討を重ねてから、ネルソンは引き金を引いた。そう、彼は《戦隊の鷹》でのアタックを宣言してから、鷹もろとも《太陽の宝球》を破壊すべく、《漸増爆弾》を起動したのだ。さらに《神への捧げ物》を食らってしまい、マナソースは土地2枚だけという苦境に追い込まれてしまったマティニョンは、それでも何とか3枚目の土地を引き当ててターンを返した。しかし、ここで《》により待望の4マナ域にたどり着いたネルソンが《精神を刻む者、ジェイス》をプレイ。これが、通った。

 《忍び寄るタール坑》を場に出しているマティニョンは、そのアタックでジェイスを倒すためには4枚目の土地を引き当てる必要がある。それを重々承知の上で、ネルソンはここで+2能力を起動せず、±0能力である《渦まく知識》能力を使用して手札の充実を選択した。しかし、ここで静かにライブラリーから《》を引き当ててみせるのがギヨーム・マティニョンという男。首を振ることしかできないネルソンを前に、クリーチャー化した《忍び寄るタール坑》の一撃が《精神を刻む者、ジェイス》を葬り去る。アンタップしたネルソンは《戦隊の鷹》の召喚から《天界の列柱》を置いてターンエンド。マティニョンは《定業》で確認した2枚のカードをともにライブラリーの底に送り込み、5枚目の土地を置いてターンを返した。


ブラッド・ネルソンは2000年のボブ・マーハー(Bob Maher)以来となる
アメリカ人のPOYタイトル獲得を切望している。

 ふたたびネルソンは意識を深いところに潜り込ませ、観客は静かにそれを見守った。そしてネルソンは《戦隊の鷹》で1点アタックを宣言し、マティニョンが2枚並べている《忍び寄るタール坑》の片方を《地盤の際》で破壊。その上で二羽目の《戦隊の鷹》を召喚してターンを返した。マティニョンは鳥たちを《紅蓮地獄》で殲滅し、《地盤の際》をセット。ここでネルソンはふたたび《戦隊の鷹》を召喚し、一方でマティニョンは有事に備えてマナを伸ばし続ける展開となった。

 ここでネルソンは2枚目の《精神を刻む者、ジェイス》を着地させるべく動き、マティニョンの《冷静な反論》を《マナ漏出》で封じた上で成就させる。ネルソンは《精神を刻む者、ジェイス》の忠誠度を+2して対戦相手の山札の一番上のカードを確認し、それを山札の最下段に送り込んだ。予想通り、マティニョンは《忍び寄るタール坑》によるアタックで《精神を刻む者、ジェイス》の忠誠度カウンターを3つ取り除き、ターンエンド。ネルソンは《精神を刻む者、ジェイス》の±0能力で《渦まく知識》し、そこから《ギデオン・ジュラ》という名の棺を対戦相手に用意しにかかった。しかし、マティニョンがここで2枚目の《冷静な反論》を披露し、これをカウンターすることに成功。マティニョンは迎える自ターンにも《忍び寄るタール坑》をクリーチャー化し、このアタックによって無防備な《精神を刻む者、ジェイス》を退場させた。

 アンタップしたネルソンは《定業》でライブラリーの上2枚を奥底に送り込み、出番を待ちうけていた《石鍛冶の神秘家》へとたどり着いた。ネルソンはこれを召喚しにかかったが、ここでマティニョンが手札に残された最後のカードを公開し、このゲームで3枚目となる《冷静な反論》がこれを打ち消す。マナを残しておくべき要素もなくなり、ここでマティニョンは《忍び寄るタール坑》をダメージクロックとして使用しはじめ、ネルソンのライフを15点に削り落した。ネルソンも負けじとミシュラ・ランドである《天界の列柱》を起動しての攻撃を試み、マティニョンの《地盤の際》を使用させることとなる。マティニョンは《転倒の磁石》をプレイした上でアタックを継続し、ネルソンのライフを12点に削る。ネルソンは自ターンのアンタップを迎える前に《転倒の磁石》を破壊した。

 引き当てたばかりのカードを確認し、ネルソンは深く息を吐き出し、眉根に皺を寄せながら椅子に深く寄りかかった。これは明らかに有効な一枚だ。ブラッド・ネルソンは2マナでふたたび《石鍛冶の神秘家》を召喚して、《肉体と精神の剣》をサーチし、残された十分なマナを使用してこれを《戦隊の鷹》にすぐさま装備させた。このネルソンの攻撃により、ギヨーム・マティニョンのライブラリーは10枚削り取られ、米軍地上戦力として2/2狼トークンが追加された。

 当初、ネルソンは予備のスリーブを狼トークンのかわりにしていたのだが、これを見とがめてか、人垣をかき分けるようにしてブライアン・キブラー(Brian Kibler)が試合テーブルへとやってきた。ブライアンは囁くと表現するには大きすぎる声で「狼トークンにはこれを使ってくれたまえ!」と「チーム・ブラッド」(Team Brad)の応援ステッカーを差し出した。これはコミカルなアメコミ風イラストのタッチで人狼風のネルソンを描いたもので、一同は大いに笑った。もはや、《肉体と精神の剣》がその威力を見せ付け続ける状況にある以上、ネルソンが七本勝負の二本目を獲得するのは時間の問題だった。

 マティニョン-1, ネルソン-1


ネルソンの狼トークン
(訳注:その後、兵士トークンに流用された。)

*訳注:どちらかの選手が四本を先取するまで行われるPOY決定戦では、以下の順番でフォーマットが変わります。スタンダード2試合→「ミラディンの傷跡」「ミラディン包囲戦」各6パックを使用したスーパーシールド3試合→スタンダード2試合(最大7試合)。つまり、Game 2とGame 3の間のサイドボーディング、およびGame 5と Game 6の際にフォーマットそのものが変更となります。

 「(いまからフォーマットがスーパーシールドに変わるわけだけど)サイドボーディングにはどのくらい時間を使っていいのかな?」とネルソンが尋ねる。

 「いつも通り、三分です」と間近に控えていたWizards社のイベント責任者であるスコット・ララビー(Scott Larabee)が応じる。

 「フォーマットが変わるのに、たった三分なの!?」

 マティニョンはニヤリと笑いながら、「オレはスーパーシールドのカードも全部スリーブ着用済みだぜ!」と準備万端のブースターボックスを披露する。

 「オレよりちゃんと準備してるんだなぁ」とブラッド。

 「オレなんて、スーパーシールドのデッキを4パターンも作ってきたぜ。もっとも、そのうちひとつはファンデッキだけどな」

 「ああ、それじゃ、そっちが3-1でリードしてGame 5を迎えたときにファンデッキを見せてもらえるのかな」

 「いやあ、オレが1-3の場合こそ、じゃないかな」

 両雄はこのPOY決定戦のために特別に用意されたフォーマットであるスーパーシールドの準備へと取り掛かった。ギヨーム・マティニョンは後ろの応援席を眺め、そこにいくつか空席を見つけた。

 「素晴らしい家族を持ったもんだね。そろってタバコ休憩に行っちゃったみたいだ」

Game 3 (スーパー・シールド)

 スーパーシールドで最初に登場したクリーチャーはネルソンの《屍百足》で、マティニョンは《闇の掌握》でこれを即座に除去。アンタップしたマティニョンは《シルヴォクの模造品》を展開した。ネルソンは3枚目の土地を置けずにターンを返すのみ。ここでマティニョンはマナの伸び悩む対戦相手に「速攻」もちの《黒割れのゴブリン》でつけこもうと画策するが、《悪性の傷》がそれを阻んだ。続くターン、ネルソンは待望の3マナ目を引き当ててからターンを返している。

 後続に恵まれないマティニョンは土地こそ伸びるものの、《転倒の磁石》をプレイできたのみで、静かに《シルヴォクの模造品》が1点ずつダメージを刻んでいくだけ。一方のネルソンはなかなか4マナにたどり着けず、目前の1点クロックである《シルヴォクの模造品》に《伝染病の留め金》で-1/-1カウンターを置くという苦しい決断を迫られる。マティニョンがいまだに後続を展開できずにいる中、4マナ目にたどり着いたブラッドは《死体の野犬》を召喚して《屍百足》を回収。ここでマティニョンは《シルヴォクの模造品》で《死体の野犬》を破壊し、2体のクリーチャーを《病的な略取》で墓地から取り戻した。

 ネルソンはガードを下げず、《屍百足》と《墨蛾の生息地》を盤面に追加。マティニョンは《黒割れのゴブリン》を追加してアタックし、ネルソンは毒カウンターを貰うことを選択する。マティニョンは《シルヴォクの模造品》を出してタップアウト。ここでネルソンも《屍百足》で殴り返し、マティニョンは敵兵の進路に《シルヴォクの模造品》を送り出してブロック。ここでネルソンが《病気の拡散》を使用したことによって、両陣営のクリーチャーがすべて破壊され、無人の荒野が両雄の前に広がることとなった。


POY決定戦は観衆とカメラが見守る中で継続される。

 マティニョンの《荒廃のマンバ》は、ネルソンがすぐさま《堕落の三角護符》をプレイしたことにより、期待されたほどのインパクトを盤面に残せない。ここでマティニョンも《墨蛾の生息地》をセットするが、緑マナが《》1枚から伸びを見せず、ダブルシンボルが遠いまま。対するネルソンは「増殖」を行ってから《疫病のマイア》を追加し、マティニョンの《闇の掌握》がこれに応じた。ネルソンは肩をすくめて「感染」クリーチャーの代わりとして《執行の悪魔》を送り出す。

 マティニョンはもう苦笑するしかない。またしても、何も出来ずにターンを返すことになってしまったからだ。そして、一方でネルソンはデッキを綺麗にまわし続け、《死体の野犬》で《死体の野犬》を回収する。ネルソンはこの盤面上の優位をしっかりと築き、サプライズカードによるマティニョンの逆転毒殺劇を封じれば良いのだ。マティニョンは《死体の野犬》を倒すために《皮裂き》を召喚してターンを終える。

 ネルソンは相手のターンのエンドステップに《伝染病の留め金》での「増殖」を行い、それを繰り返す。ようやっと2枚目の《》とめぐりったマティニョンが《裏切り者グリッサ》を召喚するが、ネルソン側の《執行の悪魔》と《伝染病の留め金》のコンボがマティニョン軍のサイズを小さくする。ネルソンはアンタップを迎えて「増殖」を繰り返し、マティニョン軍を全滅に追い込む。マティニョンは次のドローを確認して投了した。

 マティニョン-1, ネルソン-2

 逆にスコアをリードする側となり、ネルソンは後ろを振り返って「皆は楽しんでくれてる?」と家族に声をかける。

 彼の父は晴れやかに、誇り高くこう行った。「いまゲームを支配しているのは我々だ」

Game 4 (スーパー・シールド)

 両雄ともにスーパーシールド2戦目にむけてデッキを大幅に変更している。先ほどまで黒緑だったマティニョンは《》と《》を展開し、《ヴィダルケンの解剖学者》を召喚した。ネルソンは《鉛のマイア》と《平地》からのマナで《ヴィダルケンの解剖学者》に《拘引》をプレイ。4枚目の土地を置いてマティニョンはターンを返し、ネルソンが続くターンに《ファイレクシアの十字軍》を送りこんで来るのには苦笑することしか出来なかった。マティニョンはネルソンのエンドステップにマナマイアを《粉砕》で破壊し、5枚目の土地を置いてターンを返した。

 ネルソンは《ファイレクシアの十字軍》のアタックで毒カウンターを2つ見舞い、《堕落の三角護符》をプレイした。マティニョンは《水銀の噴出》で、敵陣の《ファイレクシアの十字軍》と自陣で無力化されていた《ヴィダルケンの解剖学者》をバウンスし、返すターンにその《ヴィダルケンの解剖学者》を再度召喚した。ネルソンは《伝染病の留め金》と《堕落の三角護符》の合わせ技での除去で対抗する。


真剣そのもののマティニョン

 ここでマティニョンは制空権を支配しにかかった。まずは《銀白のスフィンクス》で、ネルソンが《ファイレクシアの十字軍》と《疫病のマイア》をプレイした直後には《空長魚の群れ》を追加。空軍を展開したマティニョンは《銀白のスフィンクス》でアタックしてターンを終了したが、ここでネルソンは《病気の拡散》でブロッカーを排除してアタックを敢行、対戦相手に6つ目の毒カウンターを与えた。マティニョンとしては《銀白のスフィンクス》をブロッカーとして残しておくほかなかったが、ネルソンがもう一枚の《拘引》をプレイするや否や、投了を余儀なくされてしまった。

 マティニョン-1, ネルソン-3

Game 5 (スーパー・シールド)

 脚色も誇張も抜きで、王手をかけられたマティニョンはこう言った。

 「よし、ファンデッキで行くか」

 初手7枚を確認したマティニョンは「完璧だな」とほくそ笑む。ネルソンは完璧とは程遠い手札内容であったようで、6枚の手札をキープすることになった。

 今回のマティニョンは白赤デッキに変貌を遂げており、2ターン目に《太陽の槍のシカール》を展開。対するネルソンは土地2枚から《選別の高座》をプレイ。そしてマティニョンは目を輝かせ、「それ行け!」と《訓練する徒食者》を送り出した。ネルソンはこのクリーチャーのための装備品が調達される事態ことを嫌い、即座に《拘引》を使用して応じてみせた。

 マティニョンは2点のアタックを行ってから《回転エンジン》をプレイ。対するネルソンは盤面を膠着させるべく、願いをこめて《ノーンの僧侶》を召喚する。しかし、ここでマティニョンが《ピストン式大槌》を出して《太陽の槍のシカール》を強化し、さらに《回転エンジン》も防御不能能力を起動してきたため、ネルソンは強烈な一撃をくらってライフ残量8まで削り落されてしまう。アンタップしたネルソンは《伝染病の留め金》によって《回転エンジン》を除去するが、マティニョンは《感電破》と《不純の焼き払い》を《ノーンの僧侶》に向けて使用。これによってネルソンのライフは5点となる。

 ネルソンも《病気の拡散》によって《太陽の槍のシカール》を対処するが、マティニョンがすぐさま後続に《貫く徘徊者》を召喚し、戦場に出たとき能力によるライフ喪失で残りわずか2点。ネルソンはこの《貫く徘徊者》への回答が見いだせず、伝説的な一戦はふたたびスタンダード・フォーマットを迎えることとなった。

 マティニョン-2, ネルソン-3

Game 6 (スタンダード)

 ちょうどグランプリのデッキ登録が終わったようで、世紀の一戦を見守る観客もあっという間にあふれんばかりの数となった。

 シャッフルを続けながら、マティニョンは家族とマジックにまつわるエピソードを披露し始めた。

 「ひとつこぼれ話なんだけど、妹がうまれてはじめてマジック:ザ・ギャザリングのイベントカバレージを読んで、その感想を教えてくれたんだよ。『あら、みんながみんなギヨームみたいな感じのオタクばっかりでもないのね。ほら、彼なんて凄く素敵じゃない!』ってね」

 「ふうん。それが僕だって言うの?」

 「いや、残念。彼女の御眼鏡にかなったのはブライアン・キブラー(Brian Kibler)さ」

 ネルソンは破顔一笑し、「ま、そりゃ、もっともだな!」

 「ほかに誰がいるって言うんだよ?」

 両雄、スタンダードに戻っての初手7枚をキープ。先手のネルソンが2枚の《金属海の沿岸》からの《神への捧げ物》で、マティニョンのマナ加速である《太陽の宝球》を破壊するという立ち上がりとなった。

 両者は青対決らしく静かにマナを伸ばし、5マナ域に到達したところでネルソンが《精神を刻む者、ジェイス》を仕掛けた。マティニョンはため息交じりに《冷静な反論》を試みるが、ネルソンは《呪文貫き》を持っていたのだった。マティニョンはプレインズウォーカーの「対消滅」による除去のためだけに、手札の《精神を刻む者、ジェイス》を使わされる羽目となった。

 ネルソンは彼の取りうる選択肢について吟味し、《ギデオン・ジュラ》をプレイ。ただちに忠誠度を8にした。マティニョンは《定業》で山札の上2枚を一番底へと送り込み、さらに《定業》を詠唱した。やはり2枚のカードはあまり良いものではなかったようで、彼は残されたマナを《転倒の磁石》に使用した。ネルソンは《ギデオン・ジュラ》をクリーチャー化し、マティニョンは《転倒の磁石》を使用してこれをタップさせる。戦闘後にネルソンは《エルズペス・ティレル》を追加し、彼女は盤面に3名の友人たちを呼び出した。


計算するマティニョン

 マティニョンは《予言のプリズム》で山札を掘り進み、《忍び寄るタール坑》を起動して《エルズペス・ティレル》を破壊しにかかる。続くターンにマティニョンは《ギデオン・ジュラ》を《転倒の磁石》でタップさせるが、3体の兵士トークンのダメージが通ってしまい、ライフが11点に。ここでネルソンは戦闘後に《肉体と精神の剣》を追加し、ターンを終了した。

 なんとか打開策を模索したいマティニョンは《精神を刻む者、ジェイス》をプレイするが、ネルソンはここで《マナ漏出》。残された2マナでの《紅蓮地獄》で兵士トークンを始末しにかかりたいマティニョンだったが、またしても、ネルソンはここで《呪文貫き》を持っているのだった。

 いまや兵士トークンのうち一体が《肉体と精神の剣》を纏い、《ギデオン・ジュラ》は果敢にクリーチャー化を続ける。《転倒の磁石》で《ギデオン・ジュラ》を無力化するマティニョンだったが、残る3体による5点の攻撃を受けるほかなく、ネルソンに2/2狼トークンが追加され、マティニョンの山札が10枚削られた。ここでネルソンは2枚の《地盤の際》を使用し、マティニョンの《忍び寄るタール坑》2枚を破壊することを選んだ。

 劣勢のマティニョンだが、ここで彼は《ボーラスの工作員、テゼレット》を成就させ、《予言のプリズム》を5/5クリーチャーとした。これを受けて、ネルソンは腕を組んで彼の頭脳をフル回転させにかかる。彼はおそらく何通りものシナリオを考慮した上で、アタック宣言を敢行。これに対してマティニョンは《転倒の磁石》の最後のカウンターを使用せず、《肉体と精神の剣》をまとった兵士トークンと狼トークンが《ボーラスの工作員、テゼレット》へ、残る2体の兵士トークンがマティニョン本体へと突撃することになった。マティニョンは5/5の《予言のプリズム》で狼トークンを討ちとり、《ボーラスの工作員、テゼレット》は墓地送り、残りライフが4点となる。ここで《ギデオン・ジュラ》は《予言のプリズム》に次ターンのアタック宣言を命じ、忠誠度は10となった。

 《予言のプリズム》をブロッカーとして使えなくなってしまったマティニョンだが、2枚目の《転倒の磁石》を展開して《肉体と精神の剣》もちのトークンをタップし、兵士2体の打撃を甘受して残りライフ2という状況に。戦闘後、ネルソンは《ギデオン・ジュラ》の《暗殺》能力でタップ状態の《予言のプリズム》を屠った。マティニョンにはギデオンに送り込むべき《忍び寄るタール坑》の3枚目を万端に準備していたが、対処すべき問題はそれでも残ってしまうのだった。

 ネルソンは《定業》から《定業》につなぐ動きを見せ、2枚のカードを見てしかめっ面を浮かべた。ネルソンは《饗宴と飢餓の剣》をプレイしてもよいものか判断するため、マティニョンの墓地を再三にわたって確認した。そしてネルソンはもう一体の兵士に《饗宴と飢餓の剣》をまとわせ、マティニョンに《転倒の磁石》を使わせ、敵の残りライフを1点にまで削り落した。ひん死のマティニョンはゆっくりとライブラリーの一番上のカードをめくり、肩をすくめた。

 「まあ、俺がもう死んでいる、というわけではないか」とマティニョンはつぶやき、彼は3枚目の《転倒の磁石》をプレイして見せた。《忍び寄るタール坑》の起動と《転倒の磁石》の使用により、たしかにもう1ターンは生き延びられそうだ。ネルソンは《転倒の磁石》を使わせ、《天界の列柱》をセットしてターンを終了。マティニョンは《オパールのモックス》をプレイし、《墨蛾の生息地》と《忍び寄るタール坑》を構えてターンを終えた。マティニョンは装備品もち兵士の1体を磁石でタップし、もう片方を《墨蛾の生息地》でのブロックでサイズダウンさせた。ネルソンはターンを返す。

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 それでも、マティニョンは静かに敗れ去っていくことを良しとしなかった。ここで《紅蓮地獄》を見舞い、ネルソンの兵士トークンを残り1体だけに。対するネルソンは《漸増爆弾》をプレイして終了する。マティニョンはカードを引いただけでターンエンド。ネルソンはカードを引き、今度はこちらが《精神を刻む者、ジェイス》を成就させ、±0能力で《渦まく知識》を使用してターンを終えた。瀬戸際でさまよっていたマティニョンのドローは《予言のプリズム》。そしてこのアーティファクトによる追加のドローは...《沸騰する小湖》。

 文字通りのラストドローを確認してから、ギヨーム・マティニョンは投了の意思を伝えるべく、握手の手を差し出した。

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 またたく間に観客から大きな拍手と歓声が巻き起こる。コーリー・バウマイスター(Corey Baumeister)は飛び上がって兄のもとへ駆けつけ、彼がなしうる最大のハグで喜んだ。

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 ブラッド・ネルソンが 4勝2敗でギヨーム・マティニョンに勝利し、

 2010年度の年間最優秀プレイヤー(Player of the Year)に輝いた!

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RESULTS

対戦結果 順位
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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