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【観戦記事】 準々決勝:Luis Scott-Vargas(アメリカ) vs. 八十岡 翔太(日本)

【観戦記事】 準々決勝:Luis Scott-Vargas(アメリカ) vs. 八十岡 翔太(日本)

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Marc Calderaro / Tr. Tetsuya Yabuki

2016年4月24日

原文はこちら

ルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargas(黒緑アリストクラッツ) vs.八十岡 翔太(エスパー・ドラゴン)

 スーパースター揃いの今大会の決勝ラウンドでは、どの準々決勝も驚くべきマッチアップが実現している。しかし中でも、殿堂顕彰者同士の戦いとなったルイス・スコット=ヴァーガスと八十岡 翔太が対峙するこの卓は格別だ。さらに言うなら、この戦いはプロツアー王者同士の対決でもある。まさに大一番と言えるだろう。

 ルイス・スコット=ヴァーガスは、このマジックというゲームであらゆる面を先導している。配信者として、解説者として、ライターとして、チーム「ChannelFireball」の総帥として、プロツアーに向けた練習を目的に組まれるチーム「Ultra PRO」との合同チームのリーダーとして。かつて、プラチナ・レベルからシルバー・レベルへと降格した際は、「LSVはもう死んだ」と囁かれた。だがここ最近の素晴らしい復調ぶりは、決して驚くことではない。

 今大会、彼は「先祖の結集」として一世を風靡したデッキからその名の元である《先祖の結集》を失いながらも「生け贄」のテーマを引き継いだ「黒緑アリストクラッツ」を手に、プロツアー2連続トップ8入賞を果たした。

 日本のレジェンドにして殿堂顕彰者、八十岡 翔太はこのスコット=ヴァーガスに迫る経歴を持つ。プレイヤー・オブ・ザ・イヤー受賞、マジック・プレイヤー選手権準優勝、プロツアー・トップ8入賞2回という成績で2015年に殿堂入り、と彼の偉業を挙げればキリがない。さらにこの週末で、プロツアー・トップ8入賞回数を3回とした。

 八十岡の「エスパー・ドラゴン」デッキは、「黒緑アリストクラッツ」に対する相性が良い。大量の除去とメインから搭載された《衰滅》により、スコット=ヴァーガスは何度も盤面を築き直すことを強いられるだろう。その点は《集合した中隊》が期待に応えてくれるものの、八十岡を圧倒するためには脅威を与え続ける必要がある。

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準々決勝第1試合は、殿堂顕彰者同士の争いとなった。

「手札を見せてください」と、記録係がLSVに声をかけた。

「理想的だよ」 スコット=ヴァーガスは八十岡に向けて答える。八十岡は眉をひそめた。

「本当に?」

 スコット=ヴァーガスは頷き、「本当に」とひとこと。両者はシャッフルを終えると微笑を交わし、臨戦態勢を整えた。が、ここで会場が停電に見舞われ、一時待機となる。

 誰もが沈黙の中でそのときを待ち、ふたりの闘士が生み出す静寂を破るまいとした。電源が再起動し、カメラを再設定し、すべてが元通りになるまでの約20分間、会場は森閑としていた。

 カバレージ班リーダーを含めスタッフも動揺し、当然ながら多くの観戦者も落ち着きを失っていた。だがこの場は、この瞬間に相応しい厳粛さだった。

 元来が「孤高」である八十岡は、この静寂の中でも落ち着いていた。言語の壁があることには慣れ、それが苦痛になることもない。彼はリラックスした様子で黙想にふけっていた。それに比べれば、スコット=ヴァーガスの方はやや落ち着かない様子だ。「こんなに長く黙って座っているのは初めてだよ。こりゃツラいね」とジョークを飛ばす。

 ここで戦うベスト・プレイヤーたちの座る場所から60cmほど離れたところに、私たちはいる。両者とも沈思黙考しているが、考え過ぎないように、プランを立て過ぎないように、気をつけているようだ。

 やがて照明が一斉に当たり、突如として視界が戻る。マジック界を支える二柱は静寂を破り、呪文を撃ち合う構えを作った。

ゲーム展開

 1ゲーム目、LSVはまさに理想的な手札を引き込んだ。彼は3ターン目には《壌土のドライアド》、《エルフの幻想家》、《膨れ鞘》、《謎の石の儀式》の展開を完了させる。だがここからが長い。

 一方の八十岡は《衰滅》の到来を待った。だがスコット=ヴァーガスの小型クリーチャーたちが勢い良く攻めてくる。全体に-4/-4の修整を与えて盤面を一掃し、スコット=ヴァーガスに再び盤面を作り直すことを強いた八十岡だが、この時点で残りライフは10点となった。

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世界最高のコントロール・デッキ使いのひとりとして名を馳せる八十岡。

 このゲームのスコット=ヴァーガスは手札に恵まれていた。彼はそのターンの終了時に《集合した中隊》を放ち、《ナントゥーコの鞘虫》と《ズーラポートの殺し屋》を引き込んだ。《衰滅》後に残ったエルドラージ・末裔に加えて手札にもう2体クリーチャーを持っていたスコット=ヴァーガスは、《ナントゥーコの鞘虫》を育てて八十岡の残りライフを一撃で削り切ったのだった。

「良い引きだね」と八十岡はLSVに頷きかけた。

「理想的だよ」と、LSVは答える。「言っただろう?」

 続くゲームは八十岡が後手/drawを選び、文字通り「ドロー/draw」を活かした。《ヴリンの神童、ジェイス》から《苦い真理》と繋ぎ、4ターン目を迎えるまでにライブラリーという広大な海を泳ぐ。

 スコット=ヴァーガスは再びアグレッシブな手札をキープし、《壌土のドライアド》から次々とクリーチャーを展開していった。

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スコット=ヴァーガスと彼の率いるチームは、驚異的なデッキを今大会に持ち込んだ。その力は、この試合でも第1ゲームにて早くも示された。

 《ナントゥーコの鞘虫》と対峙した八十岡は、こちらも盤面を固める。彼は《忌呪の発動》でスコット=ヴァーガスのクリーチャーを切り伏せると、ドラゴンによるバリケードで道を塞いだ。だがこのゲームでは、八十岡は《衰滅》なしで最後まで渡り歩く必要があった。

 八十岡は《龍王オジュタイ》を盤面に残したままターンを迎え、プレイ速度を少し落とした。彼は指でテーブルを叩いて思案すると――「マジック・モールス信号」とでも言うべきか――、攻撃に向かった。スコット=ヴァーガスも自身の攻撃指定に悩みながら、同じように指で信号を送った。目に見える部分の暗算と、見えない要素を加えた再計算だ。

 このゲームは日本のスターに有利に進んだが、まだ不安はあった。「黒緑アリストクラッツ」の叩き出すダメージは、常に多く見積もらなければならない。

「本体へ攻撃」とスコット=ヴァーガスが宣言し、《ナントゥーコの鞘虫》と何体かのクリーチャーを横向きに倒した。

 その攻勢のほとんどを捌いた八十岡は、ダメージを瞬時に把握する。「5点?」この攻撃のことはかなり前から計算していた。テーブルを叩く指の爪から脳へと伝えていた。

 八十岡はこのゲーム、一見効果的でないタイミングで《忌呪の発動》を使い、それを見事なプレイに結びつけた。《忌呪の発動》でライフを回復しながら、《ズーラポートの殺し屋》による大量のドレインを許さなかったのだ。このプレイと《束縛なきテレパス、ジェイス》などの力を駆使して、八十岡は除去や打ち消しでスコット=ヴァーガスのクリーチャーたちを効率良く対処していった。《忌呪の発動》でエルドラージ・末裔を除去するべきかどうかのタイミングを、彼は完全に把握していたのだ。

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環境随一の複雑なデッキを操りながらも、八十岡は落ち着いて素早くプレイを進める。

 スコット=ヴァーガスは手札を使い切り、空いた手をもてあそび始めた。もはや打つ手なしと思われたが、彼は少しずつ体勢を立て直した。しかしその頃には《龍王オジュタイ》の攻撃が4度通っており、八十岡の盤面には《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》と《龍王シルムガル》もいた。スコット=ヴァーガスの残りライフは、2点。

 こうして、メイン・デッキで行われる2戦が終了したのだった。

「......今度も引きは最高だったんだけどな」と、スコット=ヴァーガスは息を吐いた。

 サイドボーディングとシャッフルを終えると、スコット=ヴァーガスが付け加えた。「さっきのゲーム、《衰滅》なしで勝ってるじゃないか!」

 八十岡は頷き、笑顔を見せた。

 1勝1敗で迎えた3ゲーム目、八十岡は再び後手となった。初手を6枚に減じたスコット=ヴァーガスの動きはこれまでと比べて遅いものであり、八十岡はすかさずそこを突いた。

 《闇の掌握》や《強迫》、それから《究極の価格》がスコット=ヴァーガスの展開を防ぎ、ゲーム開始から一貫してクリーチャーを複数体並ばせない。《ナントゥーコの鞘虫》を中心にしたスコット=ヴァーガスのデッキにとって、これは極めて厳しい状況だ。

 それでもトップ・デッキした《集合した中隊》から《ナントゥーコの鞘虫》と《地下墓地の選別者》を引き込んだLSVは、反撃のきっかけを掴むべく全軍で攻勢をしかけた。だが「コントロール・デッキ」のターンがやってくる。ここまで来ると、コントロール・プレイヤーにとってはすべての道が見通せて自由に行き来できるようなものだ。対峙した者は気づけば反対側にいて、いつの間にこんなに差がついたのかと不思議に思う。八十岡はそれが当然だというように《ナントゥーコの鞘虫》に《死の重み》を差し向け、《龍王オジュタイ》を着地させた。この盤面を見て、どうしてスコット=ヴァーガスが取り戻せると思えるだろうか。

 スコット=ヴァーガスは眉を上げた。続く数ターンにわたり、あらゆる手段を模索した。《薄暮見の徴募兵》は通らず、そこで彼は《風切る泥沼》を《ナントゥーコの鞘虫》で生け贄に捧げ、《異端の癒し手、リリアナ》を「変身」させた。そして、《反抗する屍術師、リリアナ》で《薄暮見の徴募兵》を戦場へ戻した。お分かりいただけただろうか?

 もし分からないなら、ひとつだけ知っておいてほしい。スコット=ヴァーガスがこのゲームを勝ち取る唯一の方法は、絶え間なくカードを繰り出すことである、ということを彼は理解している。それを実現するために、彼は《風切る泥沼》を生け贄に捧げたのだ。その歩みは本当に少しずつだが、前へ進んでいた。

 そして決着が訪れる。八十岡がスコット=ヴァーガス本体ではなく《反抗する屍術師、リリアナ》を攻撃すると、スコット=ヴァーガスは八十岡が引き込んだカードを理解した――すなわち《衰滅》。スコット=ヴァーガスは肩をすくめ、その運命を受け入れた。盤面は一掃され、八十岡は《束縛なきテレパス、ジェイス》を守るとともに(《ゲトの裏切り者、カリタス》の能力で)ゾンビ・トークンを2体得た。

 八十岡はゲーム全体を通してスコット=ヴァーガスのリソースを削り続けた。それが今、ついに実を結んだのだ。

 その後、強烈な抵抗(《エルフの幻想家》から《エルフの幻想家》、《集合した中隊》で《ナントゥーコの鞘虫》と《エルフの幻想家》、さらに《壌土のドライアド》)を見せながらも、スコット=ヴァーガスは八十岡の入念なコントロールを打ち破れなかった。

「トップ・デッキは良かったが、これでも足りないか」と、スコット=ヴァーガスはつぶやいた。

 4ゲーム目に限っては、他のゲームと異なるものであったことを記しておこう。このゲームは短くまとまり、美しいものだった。

 カードがテーブルを打つ音が生み出すリズム。短い言葉で意思疎通を交わす両者。ゲームの流れはミシシッピ川のごとく悠大だった。なぜなら、テンポを作ったのは八十岡の方だからだ。彼はそのプレイ精度と熟練の腕前を遺憾なく発揮した。

 序盤の除去とマナ・フラッドにより、スコット=ヴァーガスの運命は決した。八十岡としては《乱脈な気孔》のみの攻撃に留めることもできたが、彼は勝利の匂いを嗅ぎ取り、無駄に時間をかけなかった。

 そして稲妻のごとき詰めでスコット=ヴァーガスを青と黒の軍勢で包囲すると、八十岡は止めの一撃を決めたのだった。

八十岡 翔太がルイス・スコット=ヴァーガスを3勝1敗で下し、準決勝へ!

Luis Scott-Vargas - 「黒緑アリストクラッツ」
プロツアー『イニストラードを覆う影』 / スタンダード
8 《森》
4 《沼》
4 《風切る泥沼》
4 《ラノワールの荒原》
3 《ウェストヴェイルの修道院》

-土地(23)-

4 《膨れ鞘》
4 《壌土のドライアド》
4 《薄暮見の徴募兵》
4 《エルフの幻想家》
4 《ズーラポートの殺し屋》
4 《地下墓地の選別者》
4 《ナントゥーコの鞘虫》
2 《異端の癒し手、リリアナ》

-クリーチャー(30)-
3 《謎の石の儀式》
4 《集合した中隊》

-呪文(7)-
2 《不屈の追跡者》
1 《肉袋の匪賊》
2 《ゲトの裏切り者、カリタス》
4 《精神背信》
4 《究極の価格》
2 《ウルヴェンワルドの謎》

-サイドボード(15)-
八十岡 翔太 - 「エスパー・ドラゴン」
プロツアー『イニストラードを覆う影』 / スタンダード
4 《沼》
4 《島》
4 《窪み渓谷》
4 《詰まった河口》
1 《水没した骨塚》
3 《コイロスの洞窟》
2 《乱脈な気孔》
3 《大草原の川》
2 《港町》

-土地(27)-

4 《ヴリンの神童、ジェイス》
4 《龍王オジュタイ》
2 《龍王シルムガル》

-クリーチャー(10)-
4 《シルムガルの嘲笑》
3 《究極の価格》
2 《意思の激突》
2 《闇の掌握》
2 《精神背信》
3 《忌呪の発動》
2 《苦い真理》
1 《骨読み》
3 《衰滅》
1 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》

-呪文(23)-
2 《ゲトの裏切り者、カリタス》
3 《強迫》
2 《死の重み》
2 《否認》
1 《苦渋の破棄》
1 《無限の抹消》
1 《悪性の疫病》
1 《闇の誓願》
1 《龍王の大権》
1 《死の宿敵、ソリン》

-サイドボード(15)-

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