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準決勝:川田 千洋(東京) vs. 孫 博/Sun, Bo(中国)

By 小山 和志

 2205人が集まったグランプリ・静岡2015、数々の試合が行われて来たこの大会も残るプレイヤーは4人。たったの4人なのだ。

 その選ばれし4人の中の1人として準決勝に歩みを進めてきた川田 千洋。新婚旅行中の彼のそばで愛妻が勝負の行方を見守る。グランプリタイトルという大輪の花を、花嫁へ捧げることはできるか。

 対するは中国からの刺客、孫 博。唯一残った海外勢として、トロフィーを国へ持ち帰るべく準決勝へ挑む。

 試合に臨む2人の態度は対照的だ。川田が頻繁に笑顔を見せ、筆者にも気さくに話しかけながら準備を進めるのに対し、孫は無表情で淡々とシャッフルを行う。これがここまで16試合もの長丁場を戦ってきた両者のスタイルなのだろう。

 自らのスタイルを貫き、決勝の舞台に上がるのは果たしてどちらのプレイヤーか。準決勝がいざ始まる。

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決勝進出をかけて戦う川田(左)と孫(右)。

ゲーム1

 スイスラウンド上位の孫が先手。孫はファーストアクションの《ジェスカイの学徒》から、続いて変異という流れ。川田も3ターン目に変異、続くターンに《アイノクの盟族》で、盤面を構築していく。川田は《消耗する負傷》を変異にエンチャントするが、これが《シディシのペット》で思わず「マジかー」と渋い顔。

 それでも《休息地の見張り》を表にし、そこで公開した《マルドゥの軍族長》を戦場へ、《アイノクの盟族》の長久と続け、盤面では一歩リードする。

 孫は《ジェスカイの学徒》を追加した以外は手札に土地しか持っていないようで、一方の川田はさらなる《マルドゥの軍族長》から変異と着々とリードを広げる。

 じり貧の孫は《シディシのペット》を贄に差し出し時間を稼ぐと、引き込んだ《死滅都市の悪鬼》をキャスト。このボムに対し、川田は指でコツコツと計算すると、《贈賄者の財布》をX=5でキャスト。《死滅都市の悪鬼》を止め、一気呵成に攻撃を仕掛ける。

 しばらくの間《死滅都市の悪鬼》がブロッカーとしての役目を果たさなくなった孫は考える。チャンプブロックで時間を稼ぐべきか。それとも頭数を維持するか。尚早と判断したのか、それぞれ《マルドゥの軍族長》をブロックする。

 だが、《贈賄者の財布》があり《死滅都市の悪鬼》が動けないようではどうしようもなく、手札の土地を公開したのだった。

川田 1-0 孫

川田 千洋(東京)

 サイドボード中、一言も発さない孫に対し、川田は「《贈賄者の財布》初めて使ったけど強いよ」と口にし顔をほころばせる。心の底からこの準決勝という舞台を、マジックを楽しんでいるように見える。そんな川田に感化されたのか、これまで表情を全く崩さなかった孫にも少しずつ笑顔が見え始め、ゲーム開始前には「グッドラック」と川田に言葉を向けた。

ゲーム2

 再び孫が先手で、お互いに環境基準の3ターン目変異からスタート。順調にマルドゥカラーを揃えた孫に対し、川田の土地は全て《》。「まいったなーこりゃ」と思わずぼやく。「平地、平地!」とライブラリートップを叩いてドローに望みを託すが、引いたのは《》で動きがストップしてしまう。

 この間、孫は変異2体目から、《子馬乗り部隊》を表にし、順調に展開していく。孫のフルアタックに対し、川田は変異で《子馬乗り部隊》をブロックしてみると、孫が笑いながら公開したもう1体の変異はなんと《真珠の達人》! 川田は苦笑いしながら、並んだ《》を片付けたのだった。

川田 1-1 孫

 星をタイに戻された川田だが、それでもゲームの間にはにこやかに孫に話しかける。孫もこのマッチが始まる前からは想像もできないほどに笑いながら川田に応じる。言語が違うため一言一言は短いが、それでもマジックをプレイすることで通じ合うことができるのかもしれない。

 この大舞台の激戦で語り合う2人に言葉はいらない。さあ、第3ゲーム、最後の会話を開始しよう。

ゲーム3

 先手の川田が《マルドゥの悪刃》、《アイノクの盟族》のグッドスタート。マリガンした孫は《縁切られた先祖》、《無情な切り裂き魔》で対抗する。

 孫は《無情な切り裂き魔》で攻撃すると、変異を追加し、返す川田は《マー=エクの夜刃》で応じる。お互い順調にクリーチャーを展開し、互角の展開か...と思ったところで、孫がキャストしたのは《石弾の弾幕》。これでアドバンテージを失った川田は《賢者眼の侵略者》から《軍備部隊》で+1/+1カウンターを置き、空から3点のクロックを作り上げる。

 3マナで止まっていた孫だが、《マルドゥの戦旗》キャストから何とか土地を引き込み、《クルーマの盟族》を召喚し、まずは一安心。他方、川田は《雪花石の麒麟》を追加し、着々と空から孫を攻めていくが、孫の《はじける破滅》には「きちー」とつぶやき《軍備部隊》を捧げる。

 そのまま2マナを浮かせ攻撃してくる変異に川田はまた一言「えー、何あれ?」と苦笑い。これに孫が笑顔で応じ、この激戦のさなかにも笑い声がこぼれる。変異は《シディシのペット》で、孫は頭数を減らすことなくダメージを通す。川田は《賢者眼の侵略者》を攻撃に向かわせ、《不撓のクルーマ》を召喚し、孫の地上クリーチャーを押しとどめる。

 飛行が止まらない孫は《シディシのペット》と《無情な切り裂き魔》で攻撃を敢行。これに対し川田は長考しつつ、《マー=エクの夜刃》で《シディシのペット》を葬り去る。その死んだ《シディシのペット》を利用して孫はふたたび《死滅都市の悪鬼》。これに川田は「あーミスった、数え間違えた」と呟き、頭を抱える。

 だが嘆いていてもしょうがないと、返すターン川田は《戦場での猛進》キャストからのフルアタック。この戦闘で孫が《クルーマの盟族》と《縁切られた先祖》を。川田が《マー=エクの夜刃》と《雪花石の麒麟》を失い、孫のライフは6まで落ち込む。

 《子馬乗り部隊》で地上のブロッカーを確保した孫を前に、川田は3/5の《賢者眼の侵略者》で攻撃を続ける。これでスルーし、孫の残りライフは3点。

 川田は《消耗する負傷》で《死滅都市の悪鬼》のサイズを2/3に下げると、《賢者眼の侵略者》で攻撃を敢行。孫の墓地が切れるのを待つ。何せ孫のライフはたったの3なのだ。孫はその《死滅都市の悪鬼》の能力を使い、《賢者眼の侵略者》を倒せないながらもブロック可能なサイズまで下げることで急場をしのぐ。


孫 博(中国)

 ここで孫は《苦々しい天啓》をトップデッキしそのままキャスト。これには両者思わず噴き出す。何せ孫のライフは1になるのだ。しかしこれで手札を拡充した孫は地上のブロッカーの数を維持し、《スゥルタイのゴミあさり》で《賢者眼の侵略者》を止めにかかる。

 川田は1ゲーム目で活躍した《贈賄者の財布》をキャストし、川田は「あとたった1なんだけどなー」と呟く。そう、たった1点与えれば、その瞬間に川田の決勝進出が決まるのだ。だが、孫は2体目の《スゥルタイのゴミあさり》をキャスト。《死滅都市の悪鬼》が睨みを利かせているため、川田はこれを止めることができない。

 川田が足踏みしている間に《スゥルタイのゴミあさり》が攻撃を続け、ついに川田のライフが5まで減少する。「よいしょ」と川田はドローに望みを託すが「引けないー」と漏らし、変異を召喚し一縷の望みを託すが、劣勢は変わらない。《打ち倒し》で《不撓のクルーマ》が、《死滅都市の悪鬼》で表になった《星霜の証人》が屠られ、川田はおもわず天を仰ぐ。

 孫はダメ押しにと《マルドゥの荒くれ乗り》と変異を追加し、フルアタック。この変異が《真珠の達人》で、川田はそれを見ると握手を求め、孫が応じたところで、75分にわたる熱戦は2人の破顔を持って決着したのだった。

孫 2-1 川田

 孫 博が決勝進出!

 川田が悔しそうに「ミスったー」と声を上げる。だが、「いい経験になったよ!」と話すその顔に暗い雰囲気は微塵もない。試合を終えてフィーチャーマッチエリアを出た彼に、心配そうに見守っていた妻が駆け寄り夫をねぎらう。きっと彼女にとって、大舞台で戦う彼の姿は、どんなものより輝いて見えたことだろう。

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