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ワールド・マジック・カップ2014

観戦記事

決勝:デンマーク代表 vs ギリシャ代表

米村 薫
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Josh Bennett / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2014年12月7日


 誰も予想していなかった、大穴同士の決勝戦となった。マジックにおいて過小評価されてきた2カ国が世界を揺るがし、そして今、最強を決める卓についているのだ。

デンマーク代表
  • プレイヤーA:マーティン・ミュラー/Martin Muller(マルドゥ・ミッドレンジ)
  • プレイヤーB:トーマス・エネヴォルセン/Thomas Enevoldsen(青黒コントロール)
  • プレイヤーC:サイモン・ニールセン/Simon Nielsen(アブザン・ウィップ)
  • 「コーチ」:ラルス・バーク/Lars Birch

 キャプテンのマーティン・ミュラーは昨年新人だったが、彼の年齢や経験不足に騙されてはならない。彼のデビュー戦はプロツアー『神々の軍勢』で、17位に入賞している。また、その結果を裏付けるように、彼はチームを率いて決勝までたどり着いているのだ。他の誰もがデンマークのことを大穴だと思っていたかも知れないが、ここに到っては、彼らは本命と扱われるのが相応しい。

ギリシャ代表
  • プレイヤーA:ソクラテス・ロザキアス/Socrates Rozakeas(マルドゥ・ミッドレンジ)
  • プレイヤーB:ビル・クロノポロス/Bill Chronopoulos(ティムール・ミッドレンジ)
  • プレイヤーC:パナギオティス・サヴィディス/Panagiotis Savvidis(シディシ・ウィップ)
  • 「コーチ」:マリオス・アンゲロプロス/Marios Angelopoulos

 「ギリシャ人は誰と対戦するかは気にしないんだ」――マリオス・アンゲロプロス

 トップ8入りを決めた時点で、もう彼らはシンデレラ・ストーリーの主役だと言えた。ナム・サンオク率いる韓国代表に勝った時点で、相手はスロバキア代表かアメリカ代表となった。決勝に進むのは不可能に思えたのだ。彼らは、日曜に進んだのと同じような気合いで、オーエン・ターテンワルド/Owen Turtenwald率いるアメリカ代表を倒し、そしてワールド・マジック・カップ優勝まであと1戦に迫ったのだ。精気と自信を胸に、彼らは決勝卓に座った。

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どちらのチームが勝っても自国のマジック史に名を刻むことになる、大穴同士による決戦。

ゲーム

 序盤は、C席の「ウィップ」デッキ同士の第1ゲームがゆっくりと展開していくように見えた。パナギオティス・サヴィディス(と、肩越しに見ているマリオス・アンゲロプロス)もサイモン・ニールセンも、第2ターンに《森の女人像》を出していた。ニールセンは《包囲サイ》を出し、サヴィディスは対抗して《血の暴君、シディシ》を出し、《女王スズメバチ》を削ってゾンビを出す。ニールセンは《包囲サイ》で攻撃し、うまく《血の暴君、シディシ》と相打ちにすることができた。そのまま続けて《風番いのロック》を出すと、サヴィディスは次のターンに《エレボスの鞭》を出し、空中に大物を出した。ニールセンは2体目の《風番いのロック》を出したが、サヴィディスが《女王スズメバチ》を出したときに突然登場した航空戦力に足止めされて追撃できない。長期戦の様相を呈してきた。

 隣のB席では、トーマス・エネヴォルセンがビル・クロノポウロスの後塵を拝していた。彼は序盤に《悪夢の織り手、アショク》を出し、生け贄に捧げて、それで追放していた《凶暴な拳刃》を出していた。クロノポウロスは《嵐の息吹のドラゴン》でその上を飛び越える。エネヴォルセンの《英雄の破滅》は1手遅く、《火口の爪》で《凶暴な拳刃》を片付けると《爪鳴らしの神秘家》、《エルフの神秘家》の前に道が開けた。エネヴォルセンはすぐに対処することができず、何とかしようとしている間にクロノポウロスは《加護のサテュロス》を授与して扉を閉ざした。

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ギリシャ代表のクロノポウロスは、奪われたクリーチャーを《火口の爪》で一掃する。
クロノポウロス 1−0 エネヴォルセン

 マルドゥのミラーは、マーティン・ミュラーの有利に運んでいた。彼とソクラテス・ロザキアスは相打ちを取り合っていたが、ミュラーのクリーチャーは1ターン早く、ロザキアスのライフは削られていった。ロザキアスはミュラーのメイン・フェイズに《はじける破滅》を使って《ゴブリンの熟練扇動者》を除去してゴブリン・トークンが生成されるのを防ぐが、その隙にミュラーは戦闘前の《龍語りのサルカン》で応え、起動して攻めかかった。この巨大なプレインズウォーカーに対処できる除去を構えていないロザキアスにとって、これは悪い知らせだった。彼は《ゴブリンの熟練扇動者》と《軍族童の突発》で戦力を整えていたが、《龍語りのサルカン》に加えて《稲妻の一撃》まで飛んできては、サイドボードに手を伸ばすしかなかった。

ミュラー 1−0 ロザキアス

 C卓に戻ると、局面はかなり混乱していた。サヴィディスの墓地は肥え、《エレボスの鞭》の起動ごとにアドバンテージを得ている。しかし、ニールセンの側に陣取る《風番いのロック》を越えて攻撃することができずにいた。ニールセンの側は自分の《女王スズメバチ》でさらに複雑な状況になっていたが、サヴィディスは自分のデッキの一番上で《破滅喚起の巨人》が出番を待っていることを知っていた。彼のライフは8点まで減っていたが、攻撃するだけでそれ以上の危険を示すことができた。

 クロノポウロスの第2ゲームで、彼は土地3枚で詰まり、手札には大量の対策呪文が並んでいた。エネヴォルセンは青黒で相手を咎めることができず、単に土地を並べていくだけだった。土地が6枚になり、彼は《悪夢の織り手、アショク》を唱えたが、クロノポウロスは《ティムールの魔除け》と《頑固な否認》でそれを押し止める。その後、彼は《嵐の息吹のドラゴン》を唱えた。

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両チームとも、巨人と言える大国を倒してここに到っている。残すはあと1マッチだけだ。

 A卓で、ギリシャにとって不幸なことが起こった。ロザキアスは土地2枚の初手から、3枚目の土地を引くことができず、ミュラーが《軍族童の突発》から《紅蓮の達人チャンドラ》につなぐのをただ眺めるだけだった。彼が何とか《ゴブリンの熟練扇動者》を出した時には、彼のライフは13点まで減っていた。《はじける破滅》で《ゴブリンの熟練扇動者》を除去すると、《龍語りのサルカン》が戦場に姿を見せる。次のターン、決着。

デンマーク代表 1−0 ギリシャ代表

 エネヴォルセンは手札に残された2枚の《英雄の破滅》を使い、相手のドラゴンを除去する。そして占術土地を引き、占術のカードをライブラリーの上に残した。クロノポウロスは《時を越えた探索》で1手先んじ、もう1枚の《嵐の息吹のドラゴン》を手札に入れると即座に戦場に出す。エネヴォルセンは引いたばかりの《予言》を見せ、それを唱えてターンを戻した。クロノポウロスが《凶暴な拳刃》で《解消》を引き出すと、エネヴォルセンは致命的な《火口の爪》を止める手段を失うことになった。

デンマーク代表 1−1 ギリシャ代表

 最終的な決着はサヴィディスとニールセンの対戦にゆだねられた。やがて、ニールセンは最近墓地に送られたばかりの《テーロスの魂》の支援を受け、《風番いのロック》で攻撃を仕掛ける機会を手に入れる。その結果、ニールセンは「えーと、絆魂で......26点。ライフは50点」となった。

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「ウィップ」同士の対戦は、手に負えない戦場を生み出す。サヴィディスのほうがさらに手に負えない。

 そして状況は動き出した。ニールセンはサヴィディスの積み重ねたアドバンテージと《エレボスの鞭》に対抗することができなかった。すぐに2枚目の《破滅喚起の巨人》とさらなる《エレボスの鞭》が戦場を一掃し、そのゲームはサヴィディスが制した。

サヴィディス 1−0 ニールセン

 両チームとも、キャプテンのそばに集まっていた。第2ゲームでニールセンはマリガンし、サヴィディスは土地2枚の手札をキープして3ターン目、3枚目の土地が来ることを祈った彼の手に来たのは《汚染された三角州》だった。彼の引きは芳しいものではなく、盤面は有利とは言えない。ニールセンは《森の女人像》から《クルフィックスの狩猟者》に繋ぐことに成功しており、2点のダメージを与えてさらに《風番いのロック》を狙ったが、それは《軽蔑的な一撃》で防がれた。

 サヴィディスは占術土地を引き、占術したカードを上に残す。ニールセンは2枚目の《クルフィックスの狩猟者》を唱え、さらに《吹きさらしの荒野》をライブラリーの一番上から取り、《サテュロスの道探し》で《テーロスの魂》を墓地に送る。サヴィディスは《残忍な切断》で《クルフィックスの狩猟者》1体を片付け、アンタップしてから《破滅喚起の巨人》を唱える。ニールセンはそこに《女王スズメバチ》を合わせた。

 ここで、サヴィディスが一瞬気を抜いたのが大惨事を引き起こす。手札に《否認》と《スゥルタイの魔除け》があるからと、手札に2枚目の《破滅喚起の巨人》を抱えたままでターンを返した。ニールセンは興奮を抑えながらアンタップし、《思考囲い》。サヴィディスはそれを《否認》。その後、彼はクリーチャー全てをタップし、墓地にある《テーロスの魂》を起動した。《スゥルタイの魔除け》で《女王スズメバチ》を除去したものの、それでもゲームを終わらせるには充分だった。

サヴィディス 1−1 ニールセン
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サヴィディスとニールセンのまわりにそれぞれのチームメイトが集まる。このイベントの優勝は、この最終ゲームの結果にかかっている。

 再びニールセンはマリガンしたが、6枚でキープ。サヴィディスは教科書通りの2ターン目《森の女人像》、3ターン目に《クルフィックスの狩猟者》と繋いでいくが、喉から手が出るほど必要な土地を公開することができない。第4ターンにも土地を引けなかったが、《思考囲い》でニールセンの《エレボスの鞭》を落とさせ、3枚の《残忍な切断》と2枚の《包囲サイ》を置き去りにする。捨てたカードがあればニールセンは《クルフィックスの狩猟者》に対処でき、さらに土地を出してサヴィディスと差を広げることができた。

 ニールセンは4枚目の土地を出し、《包囲サイ》を唱え始めるが、それぞれサヴィディスの《英雄の破滅》が突き刺さる。なおもサヴィディスは土地が引けない。その代わりに出てきたのが《悪夢の織り手、アショク》だった。ニールセンは何か引きたいところだったが、引いたのは土地。あとで使うために、魅力的なカードが次々と隠されていき、《悪夢の織り手、アショク》の忠誠度が次第に溜まっていく。ニールセンは《思考囲い》を引き、《軽蔑的な一撃》を奪った。

 《悪夢の織り手、アショク》の忠誠カウンターは9個となり、サヴィディスはいよいよ奥義を待ちきれなくなった。試合後、彼は急いでいたという人もいた。いずれにせよ、ニールセンは手札もなかった。マナ不足だけが不安の種だった。

 ニールセンはいいカードを引いた。《包囲サイ》。

 相変わらずマナは充分ではなかったが、サヴィディスは《クルフィックスの狩猟者》を召喚し、《悪夢の織り手、アショク》にカウンターを貯める。

 ニールセンが次のカードを覗くと、チームメイトの表情がほころんだ。

 彼は7マナをタップし、そして《砂塵破》を唱えたのだ。

 《悪夢の織り手、アショク》は無防備となった。サヴィディスは《胆汁病》を《包囲サイ》に唱えてプレインズウォーカーを守ろうとしたが、状況は悪化の一途を辿った。

 サヴィディスに手がなくなったところで、ニールセンが再びライブラリーからカードを引く。今度は彼のチームメイトは喜びを隠そうともしなかった。

 《風番いのロック》だ。事実は小説より奇なり、この上ないトップデッキだった。

 次のターン、デンマーク代表がワールド・マジック・カップ王者となったのだった。

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おめでとう、2014年ワールド・マジック・カップ王者、デンマーク代表チーム!
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RESULTS

対戦結果 順位
S2-3 S2-3
S2-2 S2-2
S2-1 S2-1
S1-3 S1-3
S1-2 S1-2
S1-1 S1-1
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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