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【観戦記事】 決勝:Jan Ksandr(チェコ) vs. Scott Lipp(アメリカ)

【観戦記事】 決勝:Jan Ksandr(チェコ) vs. Scott Lipp(アメリカ)

By 伊藤 敦

 リミテッドにおける「強さ」とは、何で決まるのだろうか?

 ジョン・フィンケル/Jon Finkelは言った、「マジックは可能性を選択するゲームなんだ」と。

 ならば、幾多ある可能性の筋道の中から正しいものを常に選択し続けることが「強さ」ということになりそうなものだが、そう考えるとマジックのプレイヤーは最終的にはすべて機械に置き換わってしまいそうで、なんだか寂しい感じもする。

 あるいはクリスティアン・カルカノ/Christian Calcanoに言わせれば、「敗北から何かを学ぶこと」こそが「強さ」、ということになるのかもしれない。

 だが、それはそれであまりに当たり前のことすぎて、「強さ」の本質を捉えきれていないような気もする。

 「強さ」の本質とは何か。その答えを、この2人なら知っているだろうか。

 「East West Bowl」......プロツアー『ゲートウォッチの誓い』であの「青赤エルドラージ」を作り上げたチームのメンバーであるスコット・リップ/Scott Lippと、プロツアーに出場したことはないもののグランプリ・クラクフ2015で9位に入賞した経験を持つチェコのヤーン・クサンドル/Jan Ksandr

 彼らは間違いなく「強い」プレイヤーだ。何せ世界中のプロプレイヤーが集い、まるでプロツアーの前哨戦のような様相で競われたこのグランプリにおいて、最後まで勝ち残ったのだから。

 それゆえに、彼らに聞いてみたくなる。「強さ」とは何ですか、そのあなたたちの「強さ」を支えるものは何なのですか、と。

 しかし、それは聞く必要がないものだ。

 なぜなら彼らは、これから言わずとも示してくれる。

 だからただ見届ければいいのだ。

 彼らがただ「強く」ある、その生き様を。

 1077人が参加したグランプリ・シドニー2016の、その決勝戦を。

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ゲーム1

 マリガンスタートながらも《首絞め/Noose Constrictor》《血茨/Bloodbriar》《辺境林の生存者/Backwoods Survivalists》とマナカーブ通りの展開で軽快にビートダウンするリップに対し、クサンドルは《スレイベンのガーゴイル/Thraben Gargoyle》《ガヴォニーの不浄なるもの/Gavony Unhallowed》と出しつつも全ての攻撃をライフで受けて耐えるのみ。

 これを見てリップはさらに《勇敢な先導/Courageous Outrider》を戦線に追加し、次のターンにはフルアタックできるよう戦陣を整えるのだが、5ターン目まで耐えたクサンドルからプレイされたのは《闇の救済/Dark Salvation》X=2!

 《ガヴォニーの不浄なるもの/Gavony Unhallowed》をブロックに差し出さなかった理由でもあるこのカードによって、《辺境林の生存者/Backwoods Survivalists》を失っただけでなく、なおも2/2ゾンビ・トークンを2体も生産されてしまったリップは、手札も残り少ないためさすがに地上での無理攻めは諦めざるを得ない。

 しかしその隙にクサンドルは《縫い翼のスカーブ/Stitchwing Skaab》を展開し、地上を止めて飛行でダメージを刻む構えを見せる。

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 それでもリップは《剛胆な補給兵/Intrepid Provisioner》で《勇敢な先導/Courageous Outrider》をパンプした上でアタックしプレッシャーをかけようとするのだが、クサンドルはここでなぜか出したばかりの《縫い翼のスカーブ/Stitchwing Skaab》をチャンプブロックに回す。

 その理由は次のターンに明らかになった。

 エンド前に墓地に落ちた《縫い翼のスカーブ/Stitchwing Skaab》を能力を起動したクサンドルは、手札から《約束された終末、エムラクール/Emrakul, the Promised End》と《邪悪借用/Borrowed Malevolence》を捨てる。

 そして自分のターンに《墓場からの復活/Rise from the Grave》で《約束された終末、エムラクール/Emrakul, the Promised End》をリアニメイト!

 墓地から出た際には《精神隷属器/Mindslaver》効果はつかないとはいえ、13/13飛行トランプルはさすがにリミテッドでどうにかなるサイズではない。

 しかも続くターンにダメ押しにプレイされた《実地研究者、タミヨウ/Tamiyo, Field Researcher》の[-2]能力で地上の打点を減らされてしまうと、一応引いたカードを確認したのちにリップは投了を宣言するのだった。

クサンドル 1-0 リップ

ゲーム2

 青黒メインのデッキなのにタッチで《実地研究者、タミヨウ/Tamiyo, Field Researcher》というかなり攻めたデッキ構築のクサンドルだが、それだけに安定性に難があった。

 再びマリガンから《ドラグスコルの盾仲間/Drogskol Shieldmate》と《血茨/Bloodbriar》で攻めるリップに対し、《スカースダグの嘆願者/Skirsdag Supplicant》と《邪悪借用/Borrowed Malevolence》で盤面を支えようとするクサンドルだったが、《腕っぷし/Strength of Arms》で打ち取られるのを避けられると、続けて出てきた《狼の試作機/Lupine Prototype》を見て顔をしかめる。

 マリガンしているリップの手札は既にかなり少なく、この5/5の機械が動き出すのはおそらく秒読み段階だ。

 さらにクサンドルが《縫い翼のスカーブ/Stitchwing Skaab》をプレイした返し、リップが《罪からの解放者/Extricator of Sin》で土地を生け贄に捧げてアタックすると、成長した《血茨/Bloodbriar》を《スカースダグの嘆願者/Skirsdag Supplicant》と《縫い翼のスカーブ/Stitchwing Skaab》でダブルブロックせざるを得ず、クサンドルのパーマネントは防御に不安がある《縫い翼のスカーブ/Stitchwing Skaab》と土地だけになってしまう。

 だが、それほどアクションもしていないのになぜクサンドルは、マリガンのリップにこれほど押し込まれてしまっているのか?

 それはもちろんフラッド気味ということもあるが、何よりクサンドルの手札には全くプレイできる気配がない《実地研究者、タミヨウ/Tamiyo, Field Researcher》が眠っているのだ。

 フラッドしている状況下でわずかに引いた呪文がこれでは、盤面が支えられるはずもない。

 やがて意を決したリップにより、《月皇の外套/Lunarch Mantle》を付けてからの《捕食/Prey Upon》で唯一のブロッカーである《縫い翼のスカーブ/Stitchwing Skaab》を処理されると、いよいよ起動した《狼の試作機/Lupine Prototype》の強烈な打点を受けて、クサンドルのライフは一瞬でゼロを割った。

クサンドル 1-1 リップ

ゲーム3

 リップの後手2ターン目の《単体騎手/Lone Rider》をクサンドルは即座に《エムラクールの加護/Boon of Emrakul》で処理すると、続くターンには《闇告げカラス/Crow of Dark Tidings》を送り出す。

 だがエンド前の《ドラグスコルの盾仲間/Drogskol Shieldmate》から《勇敢な先導/Courageous Outrider》とすぐさまサイズを上回るクリーチャーを並べられ、2ゲーム目と同様にプレイできない《実地研究者、タミヨウ/Tamiyo, Field Researcher》を抱えているクサンドルは厳しい表情。

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 一方リップは5ターン目には《罪からの解放者/Extricator of Sin》《狼の試作機/Lupine Prototype》と立て続けにクリーチャーを展開し、動きのよくないクサンドルを最速で仕留める算段を立てる。

 それでも《テラリオン/Terrarion》からどうにか《実地研究者、タミヨウ/Tamiyo, Field Researcher》を送り出し、[-2]能力で時間稼ぎしようとするのだが、《罪からの解放者/Extricator of Sin》まで含めたフルアタックに《腕っぷし/Strength of Arms》を絡められてこれも即座に落とされると、眠らされていたクリーチャーも目覚めはじめていよいよ後がない。

 それでも《約束された終末、エムラクール/Emrakul, the Promised End》さえ、《約束された終末、エムラクール/Emrakul, the Promised End》さえ引くことができれば。

 そんなクサンドルの思いにライブラリーは応えてくれず、どう見ても対処しきれないクリーチャーの群れを前に、クサンドルは潔く手を差し出した。

クサンドル 1-2 リップ

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 写真撮影や試合後のインタビューが終わったタイミングで、青と赤の特徴的なパーカーを羽織った一団が、会場入り口からリップの方へ歓声をあげながら駆けてきた。

 リミテッドは個人競技ではあるが、ピックやプレイが上達するためには、気心の知れた仲間たちと互いにミスや疑問手を指摘しあうのが一番の早道だ。

 その点、彼ら「East West Bowl」は互いの欠点を補い、良い点は共有し、そして何よりチーム一丸となってプロツアーに臨んでいる。そんなチームに所属するリップだからこそ、様々な地域の様々なチームが入り混じったプロツアー参加者ばかりのこのグランプリで、頂点に立つことができたのだろう。

 仲間がいるからこその「強さ」もある。

 そう、リップは自らの「強さ」を改めて知らしめると同時に、「East West Bowl」こそが来週のプロツアー『異界月』において最も注目するべき「強い」チームであることを世界に示したのだ。

 おめでとう、スコット・リップ! グランプリ・シドニー2016チャンピオン!!

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